平和に行きましょう。

山桜桃さん1


山桜桃(ゆすら)
産まれてくる性別間違えたようなお兄さん
女装をすべくして生まれてきた顔
とにかく女装が上手い。顔も線の細さも全てが美しく洗練されている。しかし本人は別に病気だとかしきたりとかそんなんでなく、ただ女装が趣味なだけ。そこらの女より俺が綺麗だと自負している。周りから悪癖扱いされてるけど気にするわけが無い
元は歌舞伎役者の家系だが諸々闇が深い家庭内事情により12歳で出奔した。ヒントは妾腹
本名は絶対誰にも教えない。ある意味苗字が有名過ぎるから、師匠から貰った名前しか使わない
鳴柱。桑島爺さんの元弟子。悲鳴嶼さんの同期。5歳差




「穴の1つや2つこさえたくらいで、別れ際の女みたいに喚くんじゃないよォ全く」
 出ていくつもりは無かった。正確に言うなら、まだその時ではなかった。
 本当なら鬼が下にいるクソガキを喰らう寸前に頚を斬るつもりだったのだ。狩りの基本として、獲物を喰らう瞬間が最も周囲に無防備になるから。助けるつもりではなく、ただ自分がわざわざ動いて出るよりも、他人を餌に動く方が遥かに楽に狩れるから。
 それがなんだ、横から飛び出してきた例の大男が横っ面を殴り飛ばしたときた。
 多分その場にいた全員が心を一つにした──刀使えよ!
 高みの見物と決め込んでいた木から降り立ち、餌になり掛けていたガキの傷を適度に縛って圧迫する。とりあえず失血死することは今は無かろうと、ぴぃぴぃ血以外に色々垂れ流すそいつの頭を1発殴った。喧しいのは山桜桃の師範だけで十分だ。
 次に、と視線を向けたのは大男と鬼だ。ぶん殴ってから刀の存在を思い出したらしい男が、明らかに他の鬼とは異なる異形相手に攻めあぐねている様だった。
「よゥ旦那、助太刀するよ」
「逃げなかったのか」
「怪我人抱えて逃げるより、ここで怪我人守りながらアンタと戦う方が良いからねぇ」
 打算だが本音だ。死にかけの怪我人といるより、明らか膂力があって強い男と戦う方が余っ程生存率は高い。
「それと、師範からこんな鬼いるなんて聞いちゃいなかった。つまりこの異形は不測の事態ってヤツさぁね。倒せる内にとっとと殺しちまわにゃァならんだろ」
「私が今から逃げるとは思わないのか」
「刀あるのに拳で鬼に向かう奴が何言ってんの」



 久しぶりの非番となれば、同僚の寝惚け顔を拝みに行こうと足が山に向くのは山桜桃にとっては極々自然な流れだった。呼吸をするかの如く当たり前さで女物の着物を選び、溶き白粉と紅を用意する。勤めている最中は化粧のみに留めている為、非番は大いに羽目を外すことにしていた。
 途中の店で土産物の水菓子と腹に溜まりそうな弁当を買っていき、山奥の岩柱邸まで淑やかに歩いていく。そうして邸の門前まで来て、薪を割るような軽い音が響いていた。おや、と片眉を上げる。悲鳴嶼がやっているにしてはやや力ない音だ。時々失敗しているかのような抜けた音はもどかしい位で、あの男も風邪でも引いたのかと面白半分と心配半分が首をもたげた。少しばかりからかってやろう、と知らずに口角が上がる。
「行冥さん?今日は随分とお早い起床で─」
「えっ!?」
「あらー」
 美少女がいる。勝ち気で気の強そうな、けれど将来性しかない約束された顔の娘が、斧を持って薪割りをしていた。
 養子か、あの仏僧。
 山桜桃の顔に青筋が立ったが一瞬で取り繕った。どこの誰かは知らんが面白いネタであるには違いない。
「こんにちはぁ、お嬢さん。行冥さんは起きてらっしゃる?」
「あ、ちょ、ちょっと待ってて下さい!」
 赤くなったり青くなったり忙しないことだ。慌てふためく美少女を微笑ましく眺めながら、縁側の障子が内から開かれたのを見た。
「一体何を……」
「薪割りをしてたの!それで、おじさんのお客様よ!」
「おじっ」
 鬼殺隊の柱もおじさんと呼ばれてしまえば型なしである。邸から現れた悲鳴嶼はしばらく薪割りの少女と山桜桃を前に、まずどちらから対処すべきか考えあぐねているらしかった。この時点でかなり珍しい光景だ。
「……山桜桃、しばらく客間で待て」
「はぁい。あ、これお土産の水菓子とお弁当ね」
「ありがたく頂こう」


「悲鳴嶼さんの奥さんですか?」
「断じて違う」
「あらあら」
「あっははははは」
「え、じゃあ妹さん?」
「こんなのがいてたまるか」
「ひーひー…面白すぎる」
「良いかお前たち、コイツは男だ」
「えっ!?」
「まぁ!」
「そうだよー」
「このように人を化かして弄ぶタチの悪い男だ」
「酷いねぇ行冥さん。アンタにとっちゃアタシが男のナリでも女のナリでも然程変わんないのに、そんな風に邪険にしちゃって」
「お前の遊びに毎度付き合う身になれ。嫁をとった覚えもないのに、あちこちから奥方にと貰う遣る瀬無さが分かるか?」
「そんな風になってたのかい?めちゃくちゃ面白いじゃないか」
「南無」
「あっぶねぇな!!」
「……なんで女装してるの?変態?」
「こらっしのぶ!」
「曇りなき眼のくせしてえげつない抉り方するねぇこのお嬢ちゃん。素直な子には水菓子をあげようね」
「ありがとう。それで、どうして?」
「趣味さね。単に綺麗な着物が好きだし、化粧でより美しくなる顔を見るのが好きなだけ」
「確かにお化粧、凄く綺麗ねぇ。きっととても練習なさったのね」
「騙されるな。そうした姿で人前に出て、新人からチヤホヤされるのを毎年楽しむ変質者だ」
「2年目以降生きてたらネタばらしして、騙された奴は新人の反応で溜飲を下げるのさぁ」
「最悪じゃない」
「あらー」
「いやほら、こんな絶世の美女が目の前に現れて、そっと手を握って、“死んじゃイヤよ、絶対生きて戻って来てネ”なんて囁かれた日にゃ……何がなんでも生きて戻ってくるのよねぇ、これが。男って皆そう」
「南無」

「……なんてこともありましたね、山桜桃さん!」
「懐かしいねぇ。行冥さんとこにしのぶちゃんがいた頃の話、覚えてるもんなんだね」
「あれだけ面白いお話、忘れられる訳ないじゃないですか」







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