平和に行きましょう。
山桜桃さん2
「そこにいる鬼の娘が人を食う食わないについて、正直私と致しましては、それほど重要視する点ではないと考えます」
毒々しいまでに紅い唇が微笑みの弧を描いた。
「何をほざきやがる、山桜桃ァ」
「話はまだ聞きなさいやァ……んん、失礼!問題なのはこの隊士が鬼となった妹を連れ歩くその意味……周りに与える影響です。この娘が下級隊士らの目に触れるようになって、これから斬る鬼全てが限りなく無害に近くなる可能性があるかもしれない、なんて甘い妄想を毎度毎度僅かにでも抱くようなことがあってはならないのです」
「それに、身内が鬼になって自ら手を下した経験のある隊士も少なからずいます。そんな彼ら彼女らがこの娘と連れ歩くこの坊主を見た時、私刑に走りかねません。せめて鬼殺隊となんの関係もない場所で隠れ住むなら感知せず済んだのに、こうも目の前にのこのこ現れては殺してくれと言っているようなもんでしょう」
山桜桃の頭が垂れ、しゅるりと黒髪も地面に着く。意見を求められた為に答えたまでだが、最後は余計だと気付いたらしい。
「あ、あの時の」
「ありゃ、名乗ってなかったっけナァ?」
「初対面でしたので!俺は竈門炭治郎といいます!」
「あぁ、うん、知ってる。アタシは桑島山桜桃、鳴柱をしてるんさね」
「ゆすら…」
「山桜桃梅つって、桜なのか桃なのか梅なのか訳わかんねぇけど甘くて美味い実をつける木の名前さァ」
「そうなんですね。…あの、あの時山桜桃さんが言っていたことなんですけど」
「うん?」
「どうして、嘘をついたのか分からないんです。俺、鼻が良くて人が嘘を言ってるのか分かるんですけど、あの裁判の時山桜桃さんが俺と禰豆子について話す度に嘘の匂いがしてました」
「すげー特技持ってんなァ、弟弟子みたい」
「教えてください!どうして、周りから嫌われたくないから無難な答えを言おうってなったんですか!?」
「答え言っとるやないかーい。……そこまでバレてんなら別に言うけどもサァ?別にお前たち兄妹をどうこうしようって気は最初っからサラサラねぇのよ。それを馬鹿正直に言う訳にはいかないから、あんな風に無駄に規模を大きくして誤魔化そうとしたの。理解したかこのアンポンタン」
「俺と禰豆子を庇ってくださってありがとうございます!」
「ちげーーーよバーーーーーカ。……いやもうそれでいいわァ」
「ところでここに何か御用ですか?」
「はぁ?あぁ、そうだよ思い出した。…ちょいと不出来な弟弟子の見舞いにね。お前はもう訓練にお戻り」
「はい、また!」
「善逸よーぅ?あっははははちっせーガキがまた小さくなってらァ」
「うぁああああああんオッサンが来たァァァァァァ!!嫌だぁあああ!!!顔だけ妙に可愛いのに声も音も全っ然可愛くないオッサンだぁあああああ!!!」
「失礼なクソガキ加減は相変わらずだねぇお前。そんなんだから獪岳に苛められるんさね」
「やだよぉおおお……死ぬんなら最後蟲柱みたいな美女と結婚したいよぉ……」
「くっそ贅沢な死に際だなコイツ……。折角兄弟子で柱のアタシが見舞いに来てやったってのに随分な挨拶だことで」
「え、兄貴が見舞い……?じいちゃんにボコボコにされても全く容赦なかった兄貴が……?」
「生死掛かった任務と修行を一緒にするんじゃないよアンポンタン。土産のお菓子はアオイちゃんに渡してあるから、薬飲んだ後のご褒美として食うんだよ」
「えっ!」
「とっとと元気になって桑島のじい様に手紙書いてやんな。いいね?」
「う、うん!でも俺だけいいの?ほんとにいいの?獪岳とかに知られたら俺殺されない?」
「安心しな、獪岳にはもっといいもの食わせてるからなァ!」
「ちくしょぉおおお!!!」
「ははは、はしゃぐなはしゃぐな」
「戻ったよぅ」
「山桜桃さん、おかえりなさい」
「うん、ただいま。なァ獪岳、次の非番に東京行くか」
「分かりました。何かあるんですか?」
「……甘い物が食いたくなった」
「絶対今考えましたね」
「ほっとけ。マ、そんな訳だから……今の内に食いたい物決めときな。たまにゃあ1日全部外食って贅沢をしようじゃないか」
「善逸に返事書いてやりなァ。内容なんざ適当でいいんだよ、バカでもアホでもカスでも」
「…………」
「どうせあのアンポンタンも内容なんざ見てねぇさ、お前から返事貰えたってだけで嬉しがるよ」
雷が落ちたような甲高い轟音が背後からした。
「──じゃかぁしいぞ、クソジャリ共」
開け放たれた障子の向こうから、着流し姿の山桜桃が長い髪を垂らしながら、明らかな怒気を纏わせ現れた。
ヤバイ。珍しく数日間掛かる任務から帰還し、決して機嫌がいいとは言えない状態で夜半に戻ってきたばかりだったのだ。触らぬ神に祟りなしと最低限の挨拶と支度だけして離れた獪岳は忘れていた。普段飄々としているこの男、こと睡眠に関しては異常なくらい拘りが強い。猫可愛がりされている獪岳ですら、1度起こそうとして強烈な膝蹴りを食らわされたことがある。起きて正気に戻った時に大層謝られたが、獪岳の脇腹は暫くどす黒く変色していた。
「山桜桃さん、すみません!すぐ」
「てめぇら一遍死んでろ」
ご飯も服も女にも特別執着のない山桜桃さんは睡眠に関しては異常に拘るし、途中で起こされようものなら殴る蹴るの暴行に走る
1度獪岳相手に蹴り技食らわせてからはしのぶさんからの説教もあって結構反省している。でも任務帰りで疲れて寝ようって時に騒がれたら流石にブチギレる
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