平和に行きましょう。

1年生


 流石の夜行だって、好きな人に嫌われたい訳じゃない。いや、仮に徹底的に嫌われたとしてもそれはそれで構わなかった。愛されもせず、嫌悪さえされない無関心でいられるよりは、頭の中が夜行で埋め尽くされるほど憎まれる方が余程良い。それに、向こうから自然に好かれることが最善であっても、手っ取り早く確実な方法なんて幾らでもある。
 頭の中ではいつでも実行可能な方法がある中で、そのどれもを行動に移さず梅の一挙一動に翻弄されるのは、ひとえに愛情があるからだ。


「まぁ確かに。兄貴なら人形遊びって柄じゃないし、単に見た目が気に入って玩具にしたいだけなら薬漬けなり服従の呪文で幾らでも好きにできるしな」
「1度もそんなことした事ないんだが」
「いつやってもおかしくないとは思ってるぞ」
 反論が出来ず、黙したまま酒を飲む。あの娘を連れ帰る時にあまりにも抵抗が激しかったり、逆に自我が希薄過ぎた場合には薬物や呪文の使用も考えていた 。実際はあの家庭環境では奇跡的なくらい穏やかで無邪気な性格をしているので、使わずに済んだが。
「梅ちゃんが優しくて良かったなぁ、兄貴。お陰であんたはロリコンじゃなくてマグル生まれの子どもを救って保護した立派な魔法使いだ。是非そのまま素晴らしい大人であってくれ」
「やけに絡むな。そんなにあの子のことが気掛かりか?お前だって同じことをしてるだろ」
「娘として引き取った妻子持ちの俺と、今まで結婚もしなかったのに急に8歳の女の子拾ってきて嫁宣言したあんたを一緒にするなよ」
「安心しろ、他には全く興味が無い。梅だけだ」
「何一つ安心できねぇんだよ馬鹿野郎が」



 ぱたぱたと小さな足で駆け回る音が聞こえる。遠くの扉を潜り、こちらに近付いてくるまでいち、に、さん……と数えれば、勢いよく書斎の扉が開かれた。



 手に入った。手に入った、手に入った!!
 見つけた時からひと目で気に入った。必ず自分の手元に置くと、どんな手を使っても、決めていた。2年前から見ていたのだ。あの子は必ずあそこから引き離して守ってやろうと。しかしそれはあの子自身の意思が必要だったから、無理に連れ去ることが出来なかった。
 優しくて哀れでうつくしい娘。虐待する親を慕い、離れることの出来ない愚かしい子ども。あの子なら傷だらけで醜い自分のこともきっと愛してくれる。自分なら溺れるくらいの愛を返してやれる。だから待った。見守った。あの子が殴られても、蹴られても、冬に家から追い出されても。そしてとうとう、虐待で死にかけた時に、あの子が諦めたその時に手を差し伸べて。
 腕の中に閉じ込めた小さな体はくったりと疲れきって眠っている。無理もない、今日1日であまりにも多くのことが起きた。自分の死を感じ、両親が死に、居場所を失ったかと思えば魔法使いを名乗る男がやってきた。傷ついた体は呪文で癒してやったが、それでもかなり体力を消耗したらしく眠りは深い。
 これからどうしてあげよう。何不自由なく暮らして行けるよう手配するのは間違いない。最終的には自分を受け入れてもらうためにも、今は自分の手元よりも別の庇護下に置くことも考えねばならない。いやしかし、今のうちに少し記憶を弄り、閉じ込めてしまうのも捨てがたい。


 屋敷しもべ妖精のトーリーは最近旦那様が連れてきた「奥様」が非常に興味深かった。
 トーリーは旦那様が子供の頃から仕えているが、これまで数いる婦人に全く興味を示さず1人を好んできたお人だった。他人を信用せず、興味も示さず、ひとりぼっちであることを是としてきた中で、旦那様が突然子供を抱き抱え、トーリーにさえ引き渡さずに「ここで面倒を見る。俺の妻として丁重に扱え」と宣言したのだ。屋敷しもべ妖精には魔法使いや人間の倫理観や常識は関係ない。むしろ、あの人嫌いにさえ近かった旦那様が自ら連れてこられたのだから、嬉しくさえあった。これでこの方で終わらずに済み、この家は続くだろう。
 旦那様の奥様となる子供は、マグル生まれの魔女だった。まだ8歳くらいで、なるほど旦那様に釣り合う淑女に育てるならまだ余裕がある。この由緒正しい家、更に偉丈夫である旦那様に相応しい魔女にして見せよう。



夜行おじさん
人の話聞かないおじさん。殺人と誘拐をバッチリ決めて未来の嫁を手に入れた。山桜桃が来てからはめちゃくちゃ上機嫌。周りもハッピー、本人もハッピー。
中国魔法族の有力一族の本家筋なのでめちゃくちゃ顔が広い。

トーリー
アメリカから連れてこられた屋敷しもべ妖精。めっちゃ話を聞かない。
屋敷の一切を取り仕切る有能な妖精だが、本当に話を聞かない。





















































prev next
Back to main nobel