平和に行きましょう。

やべえ


 屋敷しもべ妖精トーリーが仕えている屋敷は、イギリスののどかな田舎にぽつねんと経っている。屋敷といっても別荘扱いで、本邸は中国にあるままま為ここにいるのは管理人として住む人間は2人だけ。滅多に来客もなく、結局別荘なのか別邸なのかはトーリーにも分からない。

 屋敷にいる妖精はトーリーのみである為、当然のことながらやるべき仕事は数多くある。しかしトーリーが特に力を入れているのは掃除でも料理でもなく「若奥様」の教育だった。 
 若奥様とはこの屋敷に住む2人のうちの1人で、数ヶ月前突然やってきた幼い女の子である。連れてきたご主人様は「妻として丁重に扱え」と言うので、トーリーが立派な淑女にすべく張り切っている。聞けばまだ8歳くらいだそうなので、成人の猶予はあと9年。まだまだ十分に間に合うだろう。倫理観など妖精に求めるものでは無い。あるのは屋敷と家人への情熱のみである。




 あ、これやっべえ。
 記憶を取り戻した時には手遅れとなっていた。目の前には切り刻まれ、物言わぬ骸と成り果てた両親だった肉塊が転がっていたし、その向こう側には杖を構えたまま山桜桃を見据える男──そこはかとなく見覚えがある──が立っている。あわや両親に殺されかけた中で助けられた、と好意的に捉えるにはあまりにも一方的で残虐な光景だ。何より恐ろしいのは、この惨状を生み出した男の視線は山桜桃から外れることがなく、人間2人を「とりあえず邪魔だから細かくした」くらいの感慨で始末したことだろう。あぁ、つまり彼は、人間をそのように扱う思考と環境で生きてきたのだ。
 見つめあっていたのは一瞬のようにも、数分のようにも感じられた。
「逃げないのか?それとも、足が竦んで逃げられないのか」
 先に口を開いたのは男だった。指へ絡めるように構えていた杖先を下ろし、1歩だけこちらに踏み出した。ぐちゃりと、鉄錆を吸った絨毯から汁が溢れ、嫌な水気を含ませた足音が鳴る。それでも男の視線は山桜桃から全くブレない。黒々とした目には情欲が僅かに混じったような熱が篭っていた。
「あぁ……でも、これは忘れた方がいいか」



山桜桃







































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