平和に行きましょう。

うさぎそのに



「noooooo smooooooookiiiiiiiiiiing…!!」

「きゃあああああああああ!!?」

地を這う低い唸り声と絹を裂く悲鳴が廊下に響き渡る。

大量のクッションに埋もれていた中で、私は目を覚ました。多分周りの人達も叩き起されただろうか、カクタスガンマンの怯えた声が聞こえる(正直かなりうるさい)。
自然に目を覚ますのが一番幸せだから極力静かな別館の二階にしてもらっていたのに…最近来たという“お客様”のおかげで皆がはしゃいでホテル中が騒がしい。

久し振りに完全に頭が冴え渡り、清々しいやら腹立たしいやらで溜息をついていると、荒々しい足音が近付いてきた。
このホテルじゃ誰が来て何が起こってもおかしくはないが、せめて時間くらいは考えてほしい…と思わなくもない。期待はしないけど。



案の定というか、私の部屋の扉が開かれ、心底怯えた表情の女の人が震えてやって来た。
女の人は人がいる事に今気付いたのか、クッションに埋もれる私にまで怯えてパクパクと口を魚のように開閉させる。

「煙草は料理の敵ィィィ…」

シェフの足音と呻き声が近付いてきた。このままだと虱潰しに皆の部屋を探すだろうし、私の部屋で見つかったとなればその場でミンチは必須。返り血でお気に入りの寝具が汚れるなんてとんでもない事だ。

私が手招きすれば、すぐさま飛び込む様にして入り込んできた。密着する女の人は、恐怖からかとても青白くて冷たかった。

「暫くここにいて、…」

そっと耳打ちすると、女の人は口をぽかんと間抜けに開けた。少し面白い。

「そんな、危険よ…!?」

「…じゃあ明日の夕飯はハンバーグ?」

女の人は大人しく従ってくれた。素直な人は好きだ、面倒臭くないから。

心地良い寝床から這い出て、クッションを積み上げる。後は私が文字通り体を張ろうではないか。

ギィィ、と古びて建て付けが微妙に悪い扉が開いた。鈍色の鉈…じゃない、馬鹿でかい包丁から入ってきて、それからシェフがやって来た。
“調理”する対象を探している時みたいにギラついた赤い目が忙しなく動く。

「煙草煙草煙草煙草煙草嫌い嫌い嫌い嫌いメリー捌く捌く捌く捌く……いない…?」

「シェフ、おはよー」

呪詛を吐くシェフがきょとんと私を見下ろした。

「……“起きた”のか…」

「まぁ…さっきはどうしたの?」

「……メリーが、ロビーで煙草を煙草を煙草を煙草を煙草を…!!」

シェフの右手に握られた包丁が振りかぶられて、私の後ろにあったクッションの山が崩れた。直撃したらしい幾つかの物が裂け、綿が出てきている。

メリーというのはさっきの女の人の事だろう。さっき咄嗟にクローゼットへ詰めておいて本当に良かった。クッションは裂けたら縫うまでだが、血の染み抜きなんて手間が掛かって面倒臭い。

「シェフ、そこにメリーはいないよ」

「………」

「ほら、煙草の臭いなんて無――ぐっ!?」

首を掴まれて壁に叩き付けられた。さっきから何なんだろう、この踏んだり蹴ったり。情緒不安定なシェフのおかげで寝具は使えなくなるし乱暴されるし、散々だ。

ふと、クローゼットの扉の隙間からこちらを覗くメリーと目が合った。恐怖からか目を見開いている。

「…ちょっと」

ぬめり、と温かく柔らかい舌と吐息が首筋をくすぐった。

「シェフ、くすぐったいよ」

「…………」

無視か。そうか、無視なのか。
暫く様子を見ても変わりないらしい。なら、こちらもそれ相応の対応をさせてもらうまでだ。いつまでもメリーを放置しておく訳にもいかないし。

目の前でゆらゆら揺れる蝋燭の炎を吹き消す。
























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