平和に行きましょう。
うさぎそのさん
包丁を持った大男が食堂のテーブルの下を覗き込んでいる姿というのは、傍から見なくとも滑稽な姿である。
「…………」
「…………」
じー、とシェフの赤い目がギラついてある一点を見つめる。小さな薄暗がりの中に子供が蹲っているようなシルエットがあった。
ジェームスだろうか?いや、ジェームスなら大人しく隠れるよりも不意を突いてとんでもない“悪戯”を仕掛ける事だろう。かと言って他の子供達にしても様子がおかしい。
ある程度考えた後、とりあえず引っ張り出せば良いと結論に至り、シェフは右手を影へと伸ばした。
「ぅあ」
予想外に柔らかい感触と聞き慣れない少女の声に一瞬怯んだものの、勢い良く引っ張り出す。
「…………」
「…………」
まず、一目見て“兎”だと思った。
髪も肌も殆どが白く、逆に頬や唇、目は異常に赤い。シェフの掌でも覆える小さな頭からは、可愛らしい兎の耳が生えていた。
少女の顔は恐怖の為か、いっそ哀れみを抱く程震えている。
「…お前は、誰だ」
「彼女はロンリーラビットですよ、シェフ。つい最近やって来たばかりでして」
シェフの後ろにいつの間にやらグレゴリーがいた。胡散臭い笑顔はロンリーラビットと呼ばれた少女へと向いている。
掴まれていた腕が離されると、少女は何度か二人を交互に見、結局手招きをしたグレゴリーの方へ這い寄る様に近付いた。
「ほら、ラビィ、この人がいつも美味しいご飯を作って下さる地獄のシェフだよ。ご挨拶なさい」
「はじめ、まして」
涙に潤んだ赤い瞳が揺れながら目の前の巨躯を見つめる。
若干サイズの合わない、レースとフリルがふんだんに使われたネグリジェの襟が肩からずり落ちた。
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