平和に行きましょう。
花嫁そのに
覚えているのは、いきなり現れた赤と黒。
物凄い力で引っ張られた痛みと、腕から滑ったお母さんの手の温もり。
それと、泣きそうな顔と悲鳴。
「その後いきなり空を飛んだせいか、あんまり意識がないんです。目が覚めたら遺跡の中だし、外に出してくれても町には帰してくれなかったし…あ、でも、お腹空いたら木の実分けてくれたっけ…」
甘い木の実を分け合いっこして、それから遺跡の中を探検した。眠くなれば遺跡の中で眠り、起きたらまた木の実を食べて、たまに歌えば酷く嬉しそうな様子だった。攫った相手はたまにいなくなることはあったが、常にサラの傍にいた。傍にいて、歌を待っていた。
そんな風に寝て起きてを繰り返して5回程、実りの遺跡にお迎えがやってきた。サラにとってそれは、トレーナーズスクールにいる時にお母さんが迎えに来たような感覚だったが、その時の来た大人たちは揃って強ばった顔だった。
「その時の、カプとお迎えの人達の話はちょっとだけ覚えてますよ。その時、多分カプは結構怒っていました。だからその人たちも、結構色々提案してたみたいで、でも結局その時は機嫌が悪いまま追い払ったんですけど」
「………あの女、いつか悪女になるんじゃねぇのか」
三日月に細められた青い目と、珊瑚色に濡れた唇が笑う。凛とした利発そうな顔立ちが時折見せる不相応の蠱惑的な表情と、相手を誘うような曖昧で挑発的な褒め言葉は毒にもなりえる。
その毒に当てられかけたらしいグズマは、らしくもなく弱音のように吐き捨てて、ソファを占領している。
「まぁ、別にトラブル起こして問題にしてる訳じゃないからなぁ。他人見下して高笑いするような奴でもねぇし」
多少人を困らせてその様子を楽しむ気はあるようだが、その程度ならニャースの悪戯と変わらない。それに年相応の可愛げがあり、素直でもある。少なくともやってはいけない事は弁えて、道徳心を大切にしている。彼女がカプに気に入られ続けているのがその証拠だ。サラが他人を破滅させて楽しむような人間になるなら、その前にカプ・ブルルが罰を与えて追放するだろうから。
「そういや…この間、カプさんに花冠作って贈ったとか話してたな」
砂漠の最奥に住む神にはさぞ良い供え物になったことだろう。時折とんでもない恨み言を吐く割に、結局甲斐甲斐しく掃除や供え物を忘れないのだから仲は良いのかもしれない。
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