平和に行きましょう。

きす


 長くしつこいキスに息も絶え絶えになりながら、垂れに垂れた涎を雑に拭う。そもそも人の口の中を舐めて何が楽しいのか全く分からない。しかしそれでもこの男は毎晩欠かさず深いキスをしたがるので、抵抗しても全くいい結果にならなかったのもあり、そのまま諦めて口を貸し出す気分で毎回受け入れていた。
「もっと舌を出して吸うんだ」
「息は鼻でな。ゆっくりでいいからな」
 授業のように知らないことを擦り込まれ、これ以上酷い目に遭いたくないカタクリは一生懸命それに応えようとダンデの首に腕を回す。
 初めの頃は酷かった。頑張って嫌だと拒否した日は「ならキス以外で」と口にもしたくない所を触られ、頭がおかしくなるまで遊ばれた。うっかり舌を噛んだ時は服の上からは分からない所に歯型を付けられ、翌日のポケモンバトルをする際着替えに難儀した。
 その都度その都度に意趣返しされ、丹念に反抗の種を潰された末に、カタクリは妥協という名の諦めをもった。
「気持ちいいか」
「あん、まり…?」
 イマイチ気分が乗らないのか、単に感覚が鈍いのか。ベッドの中でされる事と比べれば全く響くものがないのは確かで、こういう感想で仕返しされることはなかったので、カタクリは素直に首を傾げた。





 カタクリの発情期は比較的軽い部類に入るらしい。普通のオメガなら番の服や持ち物で巣作りを行いそこに篭もる等するのだが、彼女はフェロモン抑制剤を適量飲み、家の中限定で自分の事をこなせるくらいの理性は保てている。無論薬で抑制されているからそばに居るダンデが誘われることもないのだが、たまには相手をしてみたい。
「嫌です。絶対嫌です」
「オレは君以外に番になりたい人なんていないんだぞ?」
「あんた仕事があるでしょう。私はともかく…ダンデさんがオメガに腑抜けて表に立てなくなったら、他の人に示しがつかない。あと」
「あと?」
「産みたくない…」
「…………なんかすまん…」
 


「キバナさんってさ」
「あいつの話って珍しいわね。うん」
「噛み加減ばっちり把握してそうですよね」
「…なんか納得しちゃったじゃない」

 

「そういえば、フォークだったんですね」
 天気の話をするような気軽さで、カタクリはするりと確認した。
「…何の話だ、カタクリ?急に食器の話に」
「ダンデさんのことです。味覚がないのは単にストレスとかかなって思ってたし、キスでやたら唾液飲みたがったのも特殊性癖かなーで済ませたんですけど」
 特殊性癖かなーと思われていた事実も地味にキツイ。
 ソファに座るダンデの背もたれに腰掛けながら、カタクリは続ける。
「この間私の切った爪、スナック菓子感覚で食べられてるの見ちゃって。捨てたよって普通に誤魔化すから納得したフリしたんですけど、特殊性癖かなーってやっぱり思って。でもフォークの可能性もあるよなと」
「…ちなみにオレの特殊性癖だと言ったら君はどうするんだ?」
「流石にかなりキツいので実家に帰ります」
 淀みなく即答。
 カタクリの性格上、ホップや周りに言いふらすことはしないだろう。しかし、一生軽蔑されて近付かれないのは容易に想像できる。
「…君にとって、オレがフォークである方が良いのか?」
「えぇ、まぁ。わざわざ自分の家に住まわせて、色々食されてる時点で、私はケーキってことなんですよね」
 体臭から疑っていたが、唇を奪ってからは確信に変わった。カタクリの唾液は甘いミツのようで、誘惑に負けてこっそりと(バレていたらしいが)食べた爪は高級チョコレートのように美味かった。
 どこもかしこも甘くて美味しい、可愛いいきものがまたするりと隣に座った。
「ダンデさんがフォークなら、私は他のもっと危ない人に狙われる危険がない。もし食べるのを私だけにしてくれるんなら、私は他のどこにも行かない」
「熱烈なプロポーズみたいだな。だとすると、オレが欲しい時に君を食べさせてくれるってことでいいのか?」
「どうせいつも一緒じゃないですか」




















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