平和に行きましょう。

かこいこみ


「ダンデくんは、君にとても入れ込んでいるね」
「…やっぱりそう見えますか」
「あぁ。他の人も気付いているだろうし、彼程の人気者になれば誰だって噂になるよ」
 空調の重低音を聞きながら、ゆっくりと汗を拭く。体を温めるつもりだった軽いトレーニングは思いの外キツかったが、隣に更にハイペースな動きをするカブがいた為だろう。
「元々隣の家で、あの人の弟ときょうだいみたいに付き合ってましたから。あの人からすれば、妹みたいな…」
「カタクリくん。気付いていることをはぐらかすのは不誠実だ」
 あう。
 珍しく責めるような言葉を使ったカブに怯む。気まずくなって顔を逸らせば、カブも申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「…いや、すまない。君たちの問題なのに口を挟んでしまった」
「謝らないで下さい。あの人が私を…妹としてでなく好いているらしいのは本当に知ってたので」
「あんまり認めたくなさそうだ」
「…私にとってはお兄ちゃんみたいな人です」
「応えてあげられないなら、早めに教えてあげてほしい。君の為にも」
「えぇ…そうします」




「よぉーう、最近ファンクラブ会員が200人超えたモテモテのカタクリじゃん」
「お久しぶりです、現チャンピオンに通算10回振られたキバナさん」
「やめろよ…オレ様普通に傷付くだろ…」
「知らんがな…。なんか用ですか?」
「お前結構ネズとキャラ似てるよな」
「サヨウナラ」
「冗談だろ!本気で帰るなよ!」
「それリプでも似たようなこと言われてるんですよ。なんか堂々とライブに行きにくいし…」
「悪かったって。ほら、メルのリーグカードやるからこっち来いって」
「メルちゃんのなら発行当日から献品で貰ってますが」
「贔屓だな!」
「戸籍上は姉妹ですから。…ところで本当に雑談だけですか?」
「んー?SNS映えする写真撮るのにお前が来て丁度良かったからだぜ。あと最近ルリナの後輩になったって聞いたから興味本位」
「猛烈に帰りたくなってきました」
「冗談だよ。でもってルリナの後輩云々はマジなのか?」
「あぁ、同じ事務所に入ったのは本当です。同じみずタイプ使うので勉強させてもらってますね」
「本音は?」
「バトルで負けた時の先輩めちゃんこ怖い」
「ははははは」
「他人事だと思って腹立つなこの人…。余裕ぶってますが、キバナさんこそ大丈夫なんですか?」
「おいおい、このキバナに不安要素があるって?」
「メルちゃん。あの子知っての通りしっかりしてそうでハチャメチャにヤバいですから。割と生きてるのが不思議なレベルで」
「…………」
「キバナさん?」
「お前にだから話すけどさ、あいつの手持ちにキテルグマいるだろ」
「あぁ、年間傷害事件報告数トップ5に入るやつ」
「メルがオレに気づいて向かってきた後ろで、襲いかかってきた他のキテルグマ相手にラリアットかまして無双してたの見ちまってから迂闊に手が出せねぇ」
「あっはっはっはっはげほっ」
「他人事だと思ってんなよ。お前もダンデと暮らしてるんだから一つや二つなんかあるだろ」
「最近だと…タピオカの最後の一つが喉にクリティカルヒットして泣いてました。あと2人でジグソーパズルしてて、最後の一つがどうしても見つからなくて諦めて寝ようとしたら、ダンデさんのお尻にくっ付いてるの見つけました。結構ガチめに腹立ちました」
「それSNSに上げていいか?」
「キバナさんの変顔メルちゃんに送り付けていいんなら」
「やめてくれ」




「おや、これは最近ファンクラブが300人超えした人気者さんじゃないですか」
「今からそのお綺麗な顔面整形してやろうか乱入芸人めが」
「トレーナーならポケモンを出しなさい!貴方といいチャンピオンといい、口を開けば何でこう…!」
「お前とキバナさんの弄り方全く同じなんだよなぁ…。はぁ、帰るか…」
「待ちなさい!」
「何か用?」
「…………あの元チャンピオンと一緒にいるというのは本当みたいですね」
「あぁ、うん…ロー…じゃない、バトルタワーに時々出てるよ。そういえばさ」
「なんです」
「ジムリーダー就任おめでと。さっき子どもにファンサしてたのも見てたよ」
「………………………」
「何だかんだ会ってても言ってなかったし、毎回喧嘩腰になって帰るから言う気にならなかったけど。普通にすげぇよ」




「諦めない?いいや、君のそれは粘り強さからくる不屈じゃない」
 降り注ぐ雨。ほのおタイプをそろえるカブからすれば、みずタイプを揃えたカタクリは決して簡単に下せるチャレンジャーではない。負ける気はないが、カタクリの押しは過剰で劣勢を強いられつつある。
 雨で重くなった髪をかきあげながら、カタクリは「分かりません」とだけ答えた。
「自惚れは油断です。まだこの先に行けるのなら、私はそこを目指したい」
「君たちの戦い方は危うい。その戦い方で僕を越えさせる訳にはいかないんだ」
「…私はメル以外に負けるつもりはない」



























prev next
Back to main nobel