平和に行きましょう。

にじゅうごさい


もしもカタクリが25歳だったら
恐らくダンデとソニアより年上。
職業はモデル。手持ちであるミロカロスとグソクムシャと共に様々な撮影の被写体になっている。ジムチャレンジは無念のセミファイナル2回戦敗退。だが負けるまでに多くの中継でミロカロスやグソクムシャと戦い抜いた姿が人々を魅了し、マクロコスモスの事務所にスカウトされデビューした
ダンデとは違うベクトルでローズに気に入られており、度々ダンデとツートップのように扱われることを微妙に面倒に思っている



「一緒に映ってみたいポケモン?んな妙な質問…」
「まぁまぁ言うだけタダですから」
「はは、ならそうですね…チャンピオンのリザードン。あの子と1度ミロカロスとで撮ってみたいですね。なーんて冗談」
「聞いてみますね!」
「おいばかやめろ」
「快諾いただきました!!」
「イヤァアアアア」



 雄々しいリザードンと、艶やかなミロカロスと共に踊るモデル。薄いヴェールをはためかせ、軽やかに素足が空を舞う様子は実に自由だ。少女のような胸の膨らみや、未成熟の少年のように骨ばって肉の薄い体が描く曲線は若芽のような瑞々しさを隅々まで表現していた。
 共演など滅多にしないことで有名なカタクリ側からのオファーとのことで、このポスターはSNSでかなり話題となっているらしい。ダンデが聞かされた時は、密かに気になっていた人物との仕事の機会に恵まれてラッキーくらいの気持ちでいたのだが、彼女のファンが初めてといってもいいカタクリの試みにかなり興奮しているようだった。
「あ、ここにサイン入れてくれませんか。弟へプレゼントしたくて」
「あ、はい…」
 目の前で差し出されたポスターに手馴れたサインを書き終えたカタクリは、ポスターの中にいる同一人物よりも大人しくか弱いように見えた。ダンデが年齢よりも伸びた身長のせいで彼女がそう見えているだけかもしれない。
 写真やテレビで見る彼女は、もっと豪快で、クールだがエネルギッシュなイメージだった。
「…イメージと違ってがっかりでしょう」
「メディアとプライベートで変わるのは当たり前だと思いますけどね。オレだってチャンピオンですけど、今はあなたのファンの1人だ」
「ありがたい話です」



 あの男は観客を「残酷な人たち」と表現した。天然のようで案外隙のないダンデらしい的確な言葉で、聞いた時はなるほどと納得してしまった。
 ならばマクロコスモス、というかローズの元で13年間イメージモデルを務める自分は何であろうか。
「エリスさん。委員長のお話をきちんと聞いているのですか」
 オリーブの硬質な声に、エリスは口元だけの微笑みを浮かべた。笑っているのに冷淡な印象だけが残る。全く笑っていない目元はいっそナイフのように鋭かった。
 ローズとオリーブの両名が揃う場に呼び出された辺りから嫌な予感はしていたが、正にそれが的中してしまった。聞かされた話は1000年という途方もない先の話だったからだ。
「えぇ、勿論。ナックルシティの地下にいる1000年後の未来を守る手段、それに対してダンデさんに協力してもらうのは実に理にかなっていて素晴らしいと思います」
「ありがとう!君ならそう言ってくれると信じていたよ」
「どうも。でも、タイミングは図った方がいいと思いますよ。彼はあなたのお願いであってもバトルを優先しかねない…特にチャンピオンカップと被らないと良いのですが」
 ローズも相当変わった男だが、ダンデはエリスが知る中で最も理解不能な類の男だ。それでもただの仕事仲間と切って捨てるには長い付き合いであるそれぞれを思えば、エリスの口から助言めいた言葉が出てきたのは当然だった。
「それは卵のみぞ知る、というやつだよ。それに大丈夫さ。彼は必ず来てくれるし、協力してくれます」




「っざけんなああああああああああ!!!」
「いいねぇ!エリスくんの本音って初めて聞くかもしれない!」
「くそ!ああああああ畜生!!!ふざけんな、あんたこれ本気で懐くイキモノだと思ってんのか!?」
「それをしてくれるのがダンデくんと君だよ。彼のポケモンバトルの腕と、君のポケモンから愛される才能は唯一無二だ。出来なかったら…わたくしはここで埋もれて死ぬ他ないね」
「ほんっとの馬鹿野郎が!!!てめぇこの件終わらせてから自責引退させてやるからな!!!!」
「…本当に厳しくなくて優しい子だ」
 あぁ、そうだ。この子達は必ず助けると言ってくれるのだ。


 謎のポケモンだ。タイプも何も分かりはしない未知の生き物だ。エリスがいくらポケモンから問答無用の好意をぶつけられる「愛され体質」なんて馬鹿みたいな特徴を持っていても何の保険にもなりはしない。
 なのに。なのにだ。
 あの委員長は信じて疑わない。
「…はー。やぁ、えーと、ムゲンダイナ?」
 スタジアムの屋上でとぐろをまくように漂う「それ」を呼ぶと、奇怪な鳴き声が応えた。タマゴから飛び出して間もない、まだ何も知らない赤子のようなポケモンだと思えばいいが、如何せん見た目が厳つい。
「ボクの声が聞こえてるな?よし、じゃあ、こっちにおいで!」
 


「エリス!無事か!」
「今は来るな!こいつが、」
 口を開きかけ、今度は空気を裂く鳴き声が鼓膜を劈いた。
 恐らく、子どもが母親から引き離された時のようなものがムゲンダイナの中で起きたのだろう。エリスがダンデの背に庇われた瞬間に、大きく旋回し明らかな怒気を表した。
「…あぁもう、懐きかけてたのに」
「オレはキミが巻き殺されるかと思ったぜ」
「ご親切にどうも!簡単に説明してやると、ムゲンダイナからすると君は間男みたいなやつかな。ボク達もろともやる気満々みたいだ」
「OK!ならやってやるさ!」
「ははは!頼もしいね!」



「よう、元チャンピオン。華麗に戦って見事に負けたって?」
 入室早々憎まれ口を叩いたエリスの顔を見、ダンデは己の息がようやく深く人心地ついたのを感じた。
「…何だよ、君がしおらしいと調子狂うんだけど」
「キミはムゲンダイナに吹き飛ばされた時オレを庇っただろう!その時に瓦礫に紛れた鉄角パイプが腹に…!」
 忘れもしないあの瞬間。2人で捕獲寸前まで追い込み、子どもたちが加勢しようと追い付いて来た時に失敗したダンデとエリスはムゲンダイナの圧に吹き飛ばされ戦線離脱してしまった。ボールを投げるために1番前に突出していたダンデが床に叩き付けられ気絶する最後に見たのは、時間差で吹き飛ばされながらも咄嗟にダンデに覆いかぶさり、飛んできた瓦礫から身を以て庇ったエリスの体だ。
 現場から病院へと急行し、集中治療室で意識を取り戻さないまま死人のように眠っていたのが1週間前から昨日。まともに喋れるまでに意識を取り戻したのが5時間前で、ダンデにまで話がきたのは1時間前だった。
「…キミはオレがこの1週間と少しをどんな気分で過ごしたのか分かるか…?」
 蝋人形のように血の気のない顔は整っているだけに凄絶な悲惨さがある。血は止まっているが、全身隙なく巻かれた包帯とギブスで退院まで相当時間がかかるのは目に見えて明らかだ。傷どころか後遺症が全くない保証もなく、モデルとして再起できるかも怪しいと影で囁かれているエリスを見てダンデは唇を引き結んだ。
「君に心配かけて本当に悪かったよ」
 申し訳なさそうに肩を竦めてエリスは言う。しかし「でも、」と言葉を続けた。
「君は冷徹だ。ボクがこうでも試合には全く支障がなかっただろ?君を庇って死んだなら美談になるけど、逆はない。代わりにお前が死ねばよかった、なんて言われるのがオチさ。そんなことになるくらいならボクは君を庇って死ぬ方を選ぶよ。君がどう思うことになっても、世間はそれで納得するから」
「エリス、頼むからその極大ネガティブ思考はやめようぜ。オレがその立場に晒されるとは思わないのか?」
「ガラル最大のスターにそんな言葉投げかける奴はボクがゴースになって祟るよ」






















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