平和に行きましょう。

かれー


 エリスのカレーは世界一だ。時々大人たちがいない夜、エリスがメリアとホップのために作ってくれたカレーはソニアや母が作るカレーよりもうんと美味しかったのを覚えている。ジムチャレンジの時だって、エリスがキャンプをしている所を見つけたら必ずお邪魔してカレーにありついたくらいだ。
「…オレンの実をベースに、同じ数のモモンの実とマトマを1つ。これがメルが文句を言わないギリギリの味ね。最低ひとつはマトマが無いと凄い微妙な顔になるし、酷い時は作ってる途中に大量に入れられて激辛にされたから絶対必要」
「エリスは甘口しか食べないもんな。…ふーん、じゃあオレはその味が大好きなのか!」
「3人で食べる時はそうしてたから、美味しいってことはそうなんじゃない?ボク1人の時はモモンしか入れないけど」



 追われる者から追う者へ再びなった男の獰猛さと貪欲さは10年前の少年の比ではない。頂点の地位をまた奪取する為に挑む元チャンプの顔は、とてもではないが昔見せた優しいお兄さんの顔ではなかった。
「…」





 顎の輪郭に触れるか触れないかほどの長さに揃えられた髪が風にゆれるたび、海色の底の見えないような瞳が見え隠れするのが好きだった。ラフな格好のシャツとズボンから伸びる白く細い手足が無遠慮に黄金色の小麦畑に触れ、いたずらに揺らしては小生意気に笑う女の子のような笑顔に胸がドキドキと苦しくなった。
 故郷に戻るたびエリスはゆっくりと大人びて成長していったが、ホップのように精悍になっていく訳ではなく、ただ可愛らしかった顔は段々と蕾から花へと咲き誇るように更に美しさが増していくような気がした。それが決して悪い訳ではないが、少女のような丸みと少年のような硬質的な曲線を両立させたエリスが大人になった時、その血の凍る美貌に狂わされた周りにより彼自身がおかしくなってしまわないか、それが無性に心配であった。
「ふぅん。ダンデさん、ボクのこと可愛いって言ってくれるの?チャンピオンになったんなら、もっと可愛くてステキな女の子とかいっぱい周りにいるでしょう」
「確かにジムチャレンジでガラル中回ったし、シュートシティに今はいるけどな。オレは今まで出会った中でエリスが1番可愛いと思うぜ」
「そうなの?えへへ、ありがとう」


 実の所、己の容姿がそれなりに人受けするくらいに整っていることを自覚している。そしてそれ相応に性格が歪んでいることも。
「だからっていうと君と同属って感じで凄く嫌なんだけど、それなりにキミの考えてることは分かるつもり」
 目の前にいる女の子は確かに可愛いが、特に特徴や印象が強く残るタイプではない。雑誌に載っていても次のページに移ると忘れる、そんな感じの顔。そんな女の子は自分を見てもらう為なら他人を使うことに躊躇いがなく、そこそこ厄介であるのだ。エリスが新人の頃そうした先輩モデルから度々嫌がらせされたものだが、仕事を多くこなしている内にいつの間にかいなくなっていった。というか普通に上に通報して訴えただけだが。
「あんたが何なのか知ったこっちゃないけどさあ、アタシの邪魔しないでくれない?」
「ボクは1度もキミの邪魔をしたことはないよ」
「じゃあ何で毎回アタシが狙ってる男の隣にいるのよ!キバナもダンデもビートもホップもみぃいんな!アタシが偶然装って寄っていってもいっつもあんたがいて出鼻くじかれんのよ!」
「…それ多分タイミングの問題だよ」
 有名人狙いのビッチ。救いようがないな、と溜息をつく。二兎追うものは一兎も得ずをここまで地で行く馬鹿もそういないだろう。
「大体あんたみたいなキャラクターなんて原作にいなかったはずよ!もしかして同じトリップ?それとも転生者?」
「そのトリップとか転生者って単語出す人ちょくちょくいるんだよなぁ…。集団妄想なのかな」
「しらばっくれても無駄。あんたみたいなモブはさっさと消えてアタシに都合がいいようにならないと楽しくないでしょ」
「話も通じない、か…」














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