平和に行きましょう。
幼女ガラルへ
幼女とグズマがガラルに行く話
建前は、幼女の両親が遺した遺産の管理運用を管理弁護士と相談しにいく&生活ぶりの外部調査
実際もそう変わらないが、幼女(原型)自身の列記とした個人資産であり実家である屋敷の様子を見たり、とりあえず幼女(原型)時代の自分の持ち物を整理しに行く。それと病院での精密検査
グズマである理由は、ただ単純にエンジュが懐いているのと、クチナシが島から離れられないのでガラルでの保護者兼護衛
グズマならそもそも顔面掴んでひたすらポケモンバトルをさせない逞しさと物理的な強さがあるので安心(?)。たとえバトルになっても特に困ることは無い
写真立てにある女性とクチナシ→幼児退行する前のエンジュと今より若めのクチナシ
他には仕事仲間やポケモンと撮った写真が惜しみなく全て並べられているが、知らないグズマから見れば「娘と夫の痕跡がない、むしろ意図的に隠されている」状態
たった1枚だけ、浅黒い肌と黒髪の少年とエンジュのツーショットがある。幼馴染である若かりし頃のローズ委員長との1枚だが、セミファイナルでエンジュがローズに破れ、警官を目指し始めたことで疎遠になっていた
資産管理や幼女には余る屋敷、弁護士という義務的な人間といった人間味の薄いエンジュの周囲を訝しみ、「こいつが今明るい性格なのは奇跡なんじゃないのか」と勘違いして、ちょっと優しくなる。幼女が持つには釣り合わない、育て上げられた2匹のポケモンについて「両親からもらった」と聞かされているので、両親についても疑問に思いまくる。実際は、確かにタマゴを両親から贈られて、タマゴを孵す所から育て始めたので全く嘘ではない
1度「親に逢いたくねぇのか」と聞くと「うん!おはかまいり、いく!」と答えられ「あかんこれ死んでる」と結論付けられた。実際幼児退行前のエンジュの両親は、元々高齢出産からの随分年の離れた親子だったので、既に四十手前だったエンジュとは老衰で死別している。この後めちゃくちゃお墓参りした
ローズ委員長は幼馴染で初恋で元恋人の女の子だったエンジュが、警官になる時弱みやしがらみになるからとガラルに置いて出ていった全ての物を文字通り大切に代わりに保管してきていた。事件後エンジュが身も心も幼児退行し、ガラルにいた頃の彼女になったと知り「ならもうガラルで過ごせばいい」とそういう誘いをするつもりで呼んだ
ひたすら幼女への勘違いを膨らませるグズマと、永住勧められるとは露知らずガラル観光を楽しもうとする幼女と、幼児退行しても家族愛は変わらず今度はそばにいて欲しい委員長と、事情は全く知らないけどとりあえず委員長の望みのままになってほしい秘書
赤い毛玉のようなくせっ毛が、小さな指先によって器用に細く細かく編まれて収まっていく様子は器用の一言に尽きる。
「エンジュちゃん上手だねー」
「えへへ」
エンジュが編み込んでいく髪にアセロラが好きに造花やらリボンを付けていく。そうして盛られた髪は、確かに見応えはあるが、果たしてそうする必要はあるのかとグズマが引き攣る位には複雑怪奇な迷路と化していた。
「予定通り向こう着いたら、あっちから迎えに来るらしいよ。とりあえずエンジュに引っ付いて見張ってたら迷わないだろ」
燃えるように赤い癖毛、艶やかな珊瑚色のルージュが光る不遜につり上がった口元。万人受けはしないが、独特の雰囲気をまとった美女が、幾分か若々しい笑顔のクチナシと肩を並べてピースを向けている。
劣化してやや黄ばんだ写真の中にいる2人は、そうして色褪せない笑顔をグズマに見せていた。
エンジュをそのまま大人にした女性を見て、「ああ母親か」と結び付けるのは簡単だった。若いクチナシがいるのも興味深かったが、しかし他の写真立てにいるのは別の男達とたまにポケモン、むしろ2人きりの写真はそれきりだ。
良く言えば勇ましい、悪く言えば子どもっぽい笑顔の母親は、エンジュにとって良い母親だったのだろうか。一通り見て気付いたが、この場には家族写真が一切ないのだ。ここまで人と写真を撮っておいて、まさか写真嫌いもないだろう。アルバムに取っておいている可能性もあるが、それにしたって1枚も並べないのは、意図的以外の何でもない。
「…親戚もいねーのか」
伽藍道の家。1枚もない家族写真。財産管理の弁護人。
「はぁ、ガラル地方から手紙。国際便使ってまで出してくる人間に心当たりは俺にはないな」
「ローズくんからだぁ!ローズくん!クチナシ、ローズくん!」
「…そっちのチビにはあるみてぇだけどな。誰だよローズって」
「こいつ、思ったよりあっちこっちに知らない知り合いがいるからよ。そういうのがガラルにいたってことだろ。ほらよ、読んどきな」
「ういー」
「…すげぇ今更だが、こいつの親は」
「俺が面倒見てる辺りから察しろ。…あ、思い出した。ローズってマクロコスモスってガラル系企業の会長だな」
「どんな人脈持ってんだよ5歳のガキが」
「ただの5歳じゃないってことだよ」
「ローズくんがね、ガラルおいでーっていってる。クチナシみて」
「…お前これ飛行機のチケットじゃねえか。しかも日付これ明日だぞ。絶対に来いってメッセージしかねぇだろ。何様だそいつ」
「んふふー。ローズくんはせっかちやさん!」
「明日海渡って来いって言ってる相手をせっかちで済ますお前もお前だね」
「…どーすんだよ?こいつ1人で行かせんのか?」
「そんな訳にもいかんだろ。つっておっちゃんは勝手に離れらんねえしな……まぁあれだ」
「あ?」
「ハラさんにゃ話通して俺が謝っとくし、向こうで使う小遣いもやるからさ。頼んだ」
「わあい、りょこーだぁ!」
ガラル地方は一部を除いて常夏のアローラと異なり、全体的に寒い地方だという。半袖で過ごせなくもないが、ブティックに長袖と防寒具が常備されている辺りからやめた方が無難だと分かる。
また野生ポケモンの楽園のような地帯、通称ワイルドエリアと呼ばれる広い土地が大きな街を跨いで存在しており、そこでバトルの鍛錬や相棒探し、はたまたキャンプを楽しめるのだとか。ただポケモンにはかなりレベルのバラつきがあり、強い個体に襲われ這う這うの体で逃げるトレーナーも少なくない。酷い時には地面に誰かが持っていたであろうボールやピッピ人形が見つかると、グズマが試しに見た「これでガラル地方の全てがわかる!」と書かれた旅行雑誌に書かれていた。
「とんだ魔境じゃねえかよ」
「んむー?」
空港のエントランスで荷物よろしくキャリーケースに乗せていたエンジュが顔を上げる。折角だから、とアセロラが髪を編み込み、クチナシが防寒させたエンジュの格好は可愛らしいお嬢様のようになっていた。その隣に立つ一般的であるはずのグズマが、そこそこ悪目立ちしている要因だ。
「要はよ、ガラルっつーのはポケモン被害がかなりでかいんだろ…。そりゃ街もでかくなるな」
「アローラのんびり!」
「はいはいのんびりだな。なんか飲むか」
「ミルク!」
「…日持ちしねぇから無ぇな」
「おいしいみずは?」
「ほらよ、こぼすなよ」
ゆっくりと飲み始めたのを見てから手を離し、まだ来ないのか、と辺りを見回す。大柄で目付きが悪く、明らかにガラの悪いグズマを避けて周囲に人は少ないが、その分こちらに向かってくる人間は分かりやすい。クチナシが、ガラルに行くにあたり「この時間に向こうで迎えが来るらしいから、待ってろってさ」と件の手紙と待ち人を教えてくれたが、肝心の待ち人の特徴はなく、来る時間まで待つしか無かった。
「ローズ委員長の秘書のオリーヴと申します。貴方がたがエンジュさまと付き添いの方でお間違いないでしょうか?」
「ん、はい!」
「…はい」
ピンヒールの音を立てて現れたのは、キャリアウーマン風の美女だった。クールビューティーが人の形をしたような小綺麗な女性だが、親しみやすさや愛想からは距離を置いているタイプでもあるだろう。切れ長の目がすぃ、とエンジュとグズマを捉えた時、正直かなりおかしな組み合わせであると感じた筈だが、彼女はピクリとも表情を変えなかった。
「アローラからお越しいただき、ありがとうございます。遠方からの移動でお疲れでしょうが、ここから更に北のシュートシティまで移動いたします」
「ローズって人、そこにいるのか?」
「…委員長はなにぶんご多忙なお方。今回は特別にお時間を作り、エンジュさまとシュートシティで会うため特別な場所を用意していると仰られていました。さ、お喋りはここまで。荷物はスタッフに運ばせます」
さま付けされているエンジュは何も分かっていなさそうだが、「ローズ」とやらに会えると聞いて楽しそうな笑顔を隠さない。
オリーヴが指示を出すと趣味の悪いサングラスを掛けたスタッフが2人現れ、グズマが抱えていた旅行カバンとエンジュの座っていたキャリーバッグを持つ。手持ちやエンジュのも含めた必需品は別に持っている為抵抗はなかったが、オリーヴの淡々とした雰囲気やスタッフの有無を言わさない流れは元来温和ではないグズマの神経を僅かにイラつかせた。
「グズマ、だっこ」
「あァ?ガキだなお前」
普段滅多にしない要求だが、目の前にいるのは5歳の子どもだ。仕方なく抱き上げて、しかし持ち方が落ち着かないので肩車する。
「では、こちらへどうぞ」
丁寧に編み込まれた赤髪のシニヨン。ふっくらと血色の良い薔薇色の頬。まん丸く開かれきょとんとした琥珀色の大きな瞳。あぁ、あの頃のままだ。
「エンジュ、すごく久しぶりだ。もう何年ぶりなのかもワタクシはあまり覚えてないけど、君のその姿を見てワタクシまで子供の頃に戻ったような気がするよ」
「ローズくん、おじさんだぁ」
「おじさんです。エンジュは小さくなった」
「えへへ。おじさんになって、えらくなったんでしょ?すごいねぇローズくん、しゃちょーさんになったんだあ」
「そうですねぇ。君がいなくなってからもワタクシはガラルで頑張ったので」
彼女がいなくなって、元々最低限の家具しかなかった家は更に空虚になった。エンジュがスクールで取った賞状、トロフィー、ジムチャレンジのジムバッチ。そうした記念品や他人からもらったプレゼントが飾られた一部屋だけが唯一エンジュという人間を形作っていて、ローズはそれらを人伝に管理して手放さないようにしていた。風の噂で国際警察で活躍する赤髪の女刑事がいると聞いていたが、結局彼女はローズの前には姿を一切見せなかった。
「エンジュ、今日は病院で検査を受けるんですよ。ガラルの医師はとても優秀です、しっかり言うことを聞いて良い子でいるんですよ」
「あいー」
「そうだ、ワタクシやオリーヴくんと一緒にナックルシティに行きましょう!確か今日はダンデくんのエキシビジョンマッチがあります、バトル好きの君ならきっと彼のことが大好きになりますよ。その後パディスリーで…」
「委員長、観戦はともかくパディスリーに寄るお時間はございませんわ」
「…オリーヴくん、こんな小さな子の為だよ?」
「医師からエンジュさまの実年齢が委員長と同じであることは既に知っております。それに、エンジュさまは甘い物は好まないと聞かされているのですが」
「プリンくらいなら食べれますよね?」
「ローズくん、わがままメッ!」
「では観戦のみということで」
「…おいエンジュ」
「んー?」
「あのオッサン、めちゃくちゃお前のこと囲い込みにきてるぞ」
「委員長、差し支えなければ…その子は?」
「あぁ、ダンデくん!この子はね、エンジュというんだ。バトルがとても上手くてね、ワタクシに何度も勝てるくらいなんだよ!ダンデくんのことが気になったみたいだから連れてきたんだ」
よくぞ聞いてくれた!と言わんばかりの様子の割に、ローズは何一つ肝心なことは言わなかった。赤毛のふわふわした髪を無造作に伸ばした髪型や好奇心に満ちたはちみつ色の瞳はハロンシティの弟を彷彿とさせてやや親近感をわかせる。しかし、こんな子どもがチャンピオンカップ準優勝までいったローズに勝てるとは流石に信じ難い。
「チャンピオン?すごぉい!かっこいい!ふわふわ!おなかぽよぽよしてない!」
「ブッ…!」
「エンジュ、人のお腹を比べるなんて失礼ですよ」
prev next
Back to main nobel