平和に行きましょう。
inかるであ2
女が歩いていた。人気のない山道で、頼りない月明かりが竹林の影に阻まれて、ろくすっぽ足元も見えない散々な闇夜の中、歩いていた。
傍から見れば、その装いは奇妙に見えるだろう。上も下も黒い地味な洋装で、けれど羽織りだけは鮮烈な赤地に昇り龍という派手が過ぎるちぐはぐな装いをしている。髪も闇夜に紛れる中、青白い顔と鮮やかな羽織りだけが浮かび上がっていた。
ひゅん、ともう一閃。穂先に垂れた血糊と脂を飛ばし、幎は「呵呵」と笑った。
「今度から、前口上は手早く済ませることだ」
ひょっとすると、前世で自分は大罪人だったのかもしれない。だから今世で自分は死体の腹から生まれて、死体に掛かっていた布を着ぐるみにされて、名前も「幎」なんて死体に因んだことになったのだろう。
そう思わないとやってられない。育てられた寺の外にある硬い岩に頭をぶつけ、年齢不相応の知識と良識だけを思い出し、業の深い前世の報いを今世で晴らす為に徳を積もうと決めた。そして諸々奮闘して気付けば幎は鬼殺隊という組織に属していた。毎夜人を襲い喰らう化け物を狩り、善良な人々を救うことを是とする組織、人間たち。あぁ、これぞ正しい行い、これぞ善行。来世こそ救われる為、辛い鍛錬も扱いにくい刀も努力を続け、幎は今日も鬼を殺す。
「鬼殺隊を辞めなさい」
「嫌です」
容赦ない除隊通知と、即答される拒否。傍から聞けば背筋をひやりとさせるこのやり取りは、今日のこれで通算20回目となった。
大の大人でさえ首が痛くなる程体躯の良い男が、盲た双眸から静かに涙を流す。それを見てバツの悪い顔をする女は、けれど顔を背けて見ないふりをする。
これが岩柱の悲鳴嶼と、甲の幎が出会い頭に行う挨拶である。
「貴方の後ろで震える人間に戻りたくない」
「それが普通なのだ。卑下することではない」
「まだ戦えるので」
「聞き分けのない子だ」
えも言われぬ気配を感じ、僅かに半歩、体を反らす。左肩のあった空間を、手刀の形をした分厚い手が空を斬った。一瞬経ってから、帳に鳥肌が立つ。続けてすっ転ぶかのように前転し、受身を取った。今度は丸太のような脚が体躯にあった空間を思い切り空振った。
「何故避けた。折角手足を折ろうとしたというのに」
「こっわいなこの人!!」
除隊させる為なら再起不能にさせるのも厭わないらしい。
悲鳴嶼さんと幎さんは10歳違い。原作時点で17歳の甲
例の襲撃事件では震える沙代に歌を歌って宥めながら守られていた。お礼言えた時空。でも4歳と8歳の証言では状況証拠を覆せずに悲鳴嶼さんは投獄される。沙代は引き取られるも幎さんは悲鳴嶼さん勧誘にやってきた鬼殺隊に食らいつき、悲鳴嶼さんとは別ルートで育手に鍛錬付けられて入隊する。悲鳴嶼さんは沙代も幎さんもどこかで幸せになってるだろうって思ってたら幎さんが目の前に来て「違うそうじゃない」と咽び泣いた
褒めてもらいたい幎さんと再起不能にしてでも除隊させたい悲鳴嶼さん。不死川兄弟と似たような状況。会話が通じてるだけに非常に物騒。幎さんは「兄さん」と呼ぶし、それ自体は悲鳴嶼さんも特に何も言わない。でも軽率に手足は折る
沙代は幎さんと悲鳴嶼さんにそれぞれ文通で今も繋がってる
獪岳については、悲鳴嶼さんに強い猜疑心を植え付けた元凶としてめちゃくちゃ恨んでいる。たまに鉢合わせてるけどお互い無視してる
「私の槍、柄の方はもう5回ぐらい折れてるんですよね。あの人の鎖で、こう、バキッと」
「柄というか、そもそも貴方の手足も片手じゃ足りないくらい折られてますよ。主に悲鳴嶼さん関連で」
「あの人どうして隊律違反にならないんでしょうか」
「貴方が煽っているからです」
「だって、ズルいですもん。あの人は私にばかり辞めろと言ってます。自分は絶対辞める気ないのに」
「悲鳴嶼さんの左腕にヒビが入っていたのは貴方の仕業でしたか」
「手合わせしてたらつい」
「本当は私だって行冥兄さんの気持ちは分かります。もしも沙代がここに来たら、嫁入りに支障が無い程度に心折って追い返します」
「悲鳴嶼さんも幎さんも、どこかしらは必ず折ろうとするんですね」
「兄さんにとって、除隊した嫁入り姿を見ることがこの上ない幸せと言われることも嬉しくて、時々揺れそうにもなります。でもそれは突き詰めたら兄さんの自己満足なので私は嫌です」
「そこまで言葉を交わしていながら切り捨てるんですか。……いえ、気持ちはわかるんですが」
「女の幸せよりもっと優先させたい事がありますもんね」
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