平和に行きましょう。
公安隠密局
公僕の身は辛い。お上が右を向けといえば右を向き、左と言えば左を向く。上に情報あれば国益の為と走らされ、下に敵あれば上手く取り入り仇敵を倒せと命じられる。自ら選んだ道とはいえ時々ちょっと疲れるのは確かなのだ。
だがしかし、まさか己以外にシノビのおらぬ世界に飛ばされるとは思ってもみなかった。忍者はいるみたいだが、光速で飛び回ったり一撃で四肢爆散させる攻撃力があったり情報戦で馬鹿みたいに最強だったり、全くそんなことはない一般人の域を出ないレベルときた。
公安隠密局の比良坂機関の兄ちゃんが鬼殺隊の隠として情報抜きまくる話
多分一般人に擬態してる無惨相手にしたら無限城も能力も全部抜き取られる。それだけならとても有能だけど、味方の情報も抜くので隊士からめちゃくちゃ警戒される隠となった。情報の精度において非常に高度となったのが唯一の救い
光速で動く隠がいてたまるか。そこそこおっさんと呼べる歳で死亡率くそ高な鬼殺隊において後方支援とはいえ長生きしてるので、いつの間にか隠のトップみたいなことになった
近年、鬼殺隊にもたらされる鬼の出没地点、特徴の情報精度が桁違いに高くなったと柱から評価されているらしい。お館様直々に知らされ、藤永は澄まし顔のまま「恐悦至極」と返した。
鬼殺隊というアウトローっぽい組織に入ったのは、藤永の本来所属する比良坂機関が影も形も無く、けれど骨の髄まで比良坂機関に染った人間が一般人になれる訳もなく、とりあえず「国益に貢献したい!!!」と社畜根性を爆発させたからだった。国民を喰う化け物を殺す手伝い、それ即ち国益に繋がるとなれば、藤永が隠になってからの行動は非常に早かった。
「藤永、新しく柱になった子が君をとても気にしていたんだ。直接会って話をしたいそうで、この後付き合ってあげてほしい」
「御意にございます」
柱と関わることは少ない。基本的に危険度の高い任務や巡回地域を1人で巡るので他の隊士や隠が足でまといになるという理由と、藤永も藤永で柱に負けず劣らず忙しいからだ。情報戦特化したシノビたる藤永があちこち駆け回って情報精査し、他の隠や鎹烏達に伝達させるという仕事をずっと行っている。柱には危険度の高い鬼を振り分けているので、関わりといえばそんな間接的な所しかない。
えーやだなー面倒臭いなーとは思わなくもないが、お上の言う事は絶対である。それがお願いの形でも、上から頼まれた時点で絶対命令に等しいので拒否権はない。本来隠と隊士に身分の高低差はないがお館様と柱は別格なので逆らえない。嗚呼悲しきかな社畜人生。
「松の木後ろに隠れておられる御仁が、その方にございましょうか」
「そうだね。天元、出ておいで」
お館様の肯定と呼びかけに、予想通り背後から男が現れた。藤永も気付いたのは少し前であるから、素晴らしい気配遮断の技術である。
「彼が音柱、宇髄天元だよ。そして天元、彼が長く鬼殺隊に貢献してくれている隠の藤永だ。2人とも、仲良くしてね」
「お初にお目にかかります」
「おう」
鬼と鬼殺の剣士は似ていると思うのだ。
生きているのに、死んでいる。死んでいるのに、生きている。どこかで致命的な失敗を冒して入り込んだ人生の袋小路の住人達。人でありながら生きられず、けれど死に切ることさえできず、どこまでも延々
続き続ける圧倒的状況。
どちらも、どうにも出来ない現状と持て余す激情にすり潰され続けながら苦しんでいる。
違いは、それこそ鬼となったか人のままであるかだけだろう。
「とか言ったら殺されそうだな」
「どうしたんすか、藤永さん」
「口にしたら柱に殺されそうなことを考えていた」
「後生なんでそのまま一生言わないで下さい」
藤永は自己満足のまま入隊して隠をしている変わり種であるので、身内を鬼に殺された者たちの憎悪と悲哀を本当に理解出来ることは無い。だからこそ隠として客観的に、中立的に、冷徹に情報を掻き集める。
「ほれ、後藤。これまとめといてくれ」
「は?何ですかこの紙束」
「鎹烏から聞いた隊士達の情報。良いのも悪いのも色々あってな、流石に数百人分は1人では捌ききれん。あと5人に声を掛けたから頼んだ」
「はぁーーーーー!?何ですそれ、藤永さんそれ俺たちに任せて何するんですか!」
「刀鍛冶の隠れ里が鬼にバレたかもしれんから死ぬ気で急いで引越しさせる」
「本当に重要ですね!!!いってらっしゃい!!!」
比良坂は情報戦において最強。
「それはつまり実戦ではとかく雑兵とも同義なんだよなぁ……」
鞍馬や斜歯に囲まれてタコ殴りにされた記憶が蘇る。兵糧丸は持っているとはいえ鬼に嬲られるのは不快であるし普通に痛い。
隠匿している刀鍛冶の里が鬼側にバレたことを掴み、本気の光速でお館様と里長に通達。手練の隠と上級隊士を手配した結果、ものの一日二日で隠れ里はすっからかんになった。普段余裕のある姿で仕事をこなす藤永とて流石にオーバーワークだった。でもまだ休めない。なぜならどんな鬼が隠れ里を掴んだのか、それそのものは不明であったので情報が必要だった。
そして迎えた鬼は二体いた。どちらも目ん玉には上弦の肆と伍。あ、死んだなと思いながらも烏を飛ばした。
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