平和に行きましょう。
来栖くん
眉から左目を通り、頬まで縦断した古傷。来栖の左右でほんの僅かに明るさが違う藤色の瞳を見る度、しのぶはいつも堪らない気持ちになる。
来栖はその事に気が付いていて、けれど知らないフリをする。その上でしのぶを甘やかそうとしてくる。それが、来栖の嫌いな所だった。
「来栖さん」
「やぁ、しのぶ。なほ達に土産の菓子を渡したから、八つ時にでも皆で食べてくれ」
声を掛けるまで見詰めていたのも知っていたくせに、とは言わなかった。口にした所でこの男は開き直った上にはぐらかしてくるのが目に見えている。
「そうですか、いつもありがとうございます」
来栖(クリス)くん
16歳から入隊して11年目に突入した最古参。4年前まで霞柱だったがカナエと共に童磨と対峙した際左肺が壊死した。右肺だけでも呼吸は扱えるが柱としては不十分だとし、甲に戻り半引退状態。自分がいながらカナエを死なせてしまった上にしのぶに復讐を誓わせる現状になってしまったことを後悔し続けている。でもしのぶもしのぶで自分を救う為に左目に傷を付けさせてしまったことを負い目に感じているからお互い拗れてる
来栖くんは死んだ義妹としのぶを重ねているので、彼女まで失うことを極端に恐れている。本当ならカナエの言う通りお嫁にいってお婆さんになるまで幸せになってほしい
「なぁ、しのぶよ。ちょっとした問題を出してあげよう」
「嫌ですって言っても続けるんでしょう、来栖さんは」
「ふふ。では問題だ。有能な働き者と有能な怠け者、無能な働き者と無能な怠け者がいるとする。それぞれ頭領と参謀と下働きに仕分けるとしたら?1つの役職につき1人しか就けないとする」
「……それは、妙な問題ですね。ちなみに余った1人はどうするんです」
「それは答え合わせで教えよう。時間制限はないから、ゆっくり考えてみなさい」
「有能な怠け者が頭領、有能な働き者が参謀。そして、無能な働き者が下働き……です」
例の問題の答え合わせに来たしのぶに、来栖は持っていた湯呑みを差し出してきた。白く熱い中身の香りを嗅ぐと、牛乳独特の変わったそれが鼻をくすぐる。
「残念、不正解だ」
「……正解だからくれたのでは?」
「問題を真面目に考えたご褒美だよ」
隣に座るような仕草に従い、湯呑みを持ったまま来栖の隣に腰掛ける。相変わらず羽織からは白檀の甘い香りがした。嫌いではないが、この人にはもっと違うものが似合うんじゃないかと常に思う。
「しのぶの答えはとても近かった。が、最後が致命的だったな」
「……では、無能な怠け者が下働きなんですか?そんな人、働きますかね」
漠然とした想像だが、下働きにすらならないのではないのか。
「まず、有能な怠け者が頭領だとする。この場合、そいつは有能だから自分で考えて判断出来る。それから怠け者でもあるから、他人にそれを任せて働かせる。要は人事だな」
「そこは同意見です。それで有能な働き者さんは人に任せるよりは自分で動いた方が早いと思って、頭領の補佐をする方が合っている気がしました」
「根拠もあって素晴らしい回答だ。ではここからが本題だ。下働きは無能な怠け者が適役な理由はな、そいつは自分で何も考えて動けないからだ。要は指示がないと動けない。指示以上のことは何もしない。そういう奴の方が、無能な働き者より余っ程良い」
「……無能な働き者はそんなに厄介なんですか?」
「適切な判断な下せないのに自由意志だけは持っている。その上謎の自信でやらなくてもいいことをやって事態を悪化させる可能性がある。……指示以外は何もしない無能な怠け者の方が被害がないと思わんか?」
「という問題を柱の皆にしているらしいね、朔」
「悲鳴嶼から聞きましたか、お館様」
屋敷の庭に出ている青年を見下ろしながら、来栖は嘆息した。ちょっとした暇潰しに独逸の軍学でも仕込んでみようかと試した茶目っ気だが、呼び出されては馬鹿正直に言えるとは流石に思わない。
「以前任務で助けた男が軍人だったのです。そいつから借りた海外の書物に、柱連中へ問い掛けた内容と同じ物が載っていました」
「それで、子どもたちは答えられたのかな」
「殆ど全員惜しい所までは答えました。悲鳴嶼だけ根拠も全て正解でしたね」
慈悲深さも冷徹さもどちらも備えている男だが、しかし完答されるとは思っていなかった。過去に何があったかは聞かないが、こちらが思うより他人を信用していないらしい。
「無能な働き者は組織の毒です。無能な怠け者の方が手足として使い勝手が良い。が、この鬼殺隊においてはさして問題にはなりますまい」
「どうして?」
「実力を見誤った者から死にます故」
死ぬだけなら良いが、食われて鬼を強化させてしまうまでが本物の無能な働き者だ。基本的にやることなすことが全て最悪に寄る。
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