平和に行きましょう。
相互依存
傍から見ると、この関係性は随分と倒錯しているという。普通、友人が友人を家に閉じ込めて出さないことはないらしい。
とはいえ今更そんなことを言われても、伊織から何か行動を起こすことはしなかった。できなかった、ともいう。人里離れた山奥の屋敷は確かに隔絶された世界だが、何も道が塞がれている訳でもない。鍵が掛けられていることもなく、好きに出入りもできる──伊織からすれば、これみよがしに。
小賢しく、誰もいない時にでも出れば良い話だが伊織の両足は動かない。心の目とやらで嘘を見抜くあの男に下手な嘘を吐けば、今わずかなりともある自由が無くなるのも面倒臭さが先立つ。
このように、伊織はここで飼い殺されていた。
初めはとんだ軟弱者。次には苦労人。今は、哀れな男。
鉛よりも重たい自責の念と、押し潰されそうな執着をこっそりと抱えて飄々と笑っている。
「子どもを弟子には取らないって言ってなかったか」
遠くから聞こえるギィギィ喚く癇癪。またか、と思う程度には聞き慣れて、あともう暫くすれば静かになってまた再開するんだろう、とも予測が立つ。押しかけ女房ならぬ弟子は見た目相応に短気だが、かなり根性があるようだった。
そして悲鳴嶼は頑固ではないが、筋は曲げぬ男である。まさか快諾した訳ではあるまいし、何かやむを得ない事情があったのだろうとは分かる。が、それで何も聞かないでやる程伊織は悲鳴嶼全肯定マシンではない。
「そもそも、あの子は呼吸が習得できない。酷なことだが、才能はない」
「だがお前が放っておけなくなる程の事情とカラクリがあったと」
曰く付きか、と頷きながらも伊織には弟子への興味は無かった。だが、人間不信に陥りながらそれでも他人へ冷徹に徹しきれない男が弟子を取るから、どんな真意があったのか気になった。
prev next
Back to main nobel