平和に行きましょう。

たちわるい


 タチの悪い冗談だと思いたくなるような少年だ。きっと彼が卒業後、本当にどこかの城勤めのプロ忍になれば、間諜や暗殺について警戒を相当高く見積もらなければならなくなる。
「ウチで囲い込むかなぁ」
 城主が戦好きで敵が多いのが難点だが、タソガレドキは福利厚生は手厚いし、何より忍者を重用している。本人の性格や行動を見ていても特に悪い所はない。たまに人の不運に高笑いすることはあっても、最終的に手助けして励ましたり仲間思いだろう。
 唯一憂慮せねばならないとしたら、
「何です、猫の話ですか」
 黒黒として艶による光を帯びた髪が、目の前で肩から背へと滑り落ちる。音もなく、流水のような滑らかな髪を耳にかける仕草をしながら、切れ長の瞳がす…と雑渡を見た。あまりにも自然な様子の秋波は、本来の姿を知っていて尚一瞬血迷いそうになる位可愛らしい女のソレだ。忍術学園の教育云々よりも、本人が持つ天賦の才がさせるのだろう。でなければ、今頃忍術学園はもっと工作と間諜に優れた忍者が多く輩出されるはずだ。
 そんな風に現実逃避をしていれば、太ももに白魚のような手が添えられ、更に下から覗き込まれるように顔が近付く。至近距離で尚、粗が見当たらないとは最早悪い冗談のような出来だ。きめ細かく白い肌に通った鼻筋は丸く繊細な曲線を描いた極めて女性的。長い睫毛は呼吸と共に小さく震え、淡く紅が引かれてぽってりとした唇はやや拗ねたようにすぼめられている。
 男らしさと全く無縁の柔らかな輪郭を持つ、どこに出しても恥ずかしくない立派な美女。…にしか見えない少年。
 忍術学園6年生、辺銀沙である。
「伊作ならやりませんよ。というか、あれを軍に引き入れたあかつきには不運で戦敗退とかなりますよ、良いんですか」
「それ現実になりそうで怖いね。いや、善法寺伊作くんじゃなくて」
「では、鶴町伏木蔵?ギニョールで手懐けたり膝に載せたり。青田買いですか、忍組頭による光源氏計画ですか」
「何で私脅されてるの?」
 初対面はともかく、2度目以降から雑渡に対して沙は弱味を握らんと爛々としている。やみくもに向かってくる潮江や食満と違って、パーソナルスペースにぬるっと入り込んでくるから始末が悪い。
「脅してなんて、人聞きの悪い。ちょっとした好奇心です」
「好奇心で蛇と針仕込もうとするのはやめておくれよ」
「ちぇっ、バレたか…」
 太ももに置かれていた左手がパッと離される。着物の袖から首をもたげさせて現れたのは、チロチロと舌を見せる蛇。だが、毒も害もないただの子蛇だ。右手に仕込まれていたであろう針も、沙が袖を振って落としたそれは先を丸くした枝だった。つまり、仕掛けられていたのは色仕掛けでもなく、子どもの悪戯。
「他の奴なら引っ掛かったんじゃない?」
「諸泉尊奈門なら、蛇を首にかける所まで出来ましたよ」
「何をしてるんだか…」
 ケラケラと笑いながら沙は蛇をまた仕舞い込む。やや癖と豆が目立つが、それでもやはり細く長い手は女のようだ。爪まで手入れしている徹底ぶりはどこから来るのだろう。
「スカウトするなら君かなぁ、沙くん」
「はぁ、それはまた。大きく買って頂いてありがとうございます」
「気のない返事だな。福利厚生に給料、有給もあるし年に1回の温泉旅行もつくよ。あとついでに戦好きの上司」
「最後ので台無しですね」
 









































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