平和に行きましょう。
先生生存
まさかの生存ルート
その日、朝早くから病院に向かっていたのは最早習慣と言う他ない。ほぼ根本から失われた左足の義足と定期検診に強いられた、とも言える。故に、未だ手放せない松葉杖を手にやって来た多々良がその玄関先で、血の滲んだ包帯姿と不機嫌そうな面を引っ下げた知り合いを見つけてしまったのは、双方にとって幸運とも不幸とも言えない微妙な運の悪戯なのだ。
「あっ」
「えっ…」
あっ、ヤベ…と相手の口元がそう言いたげに動いたのを見た多々良は、どうやら思った以上に良い笑顔を浮かべているらしい。
「あ、えーと、それじゃ…」
「まぁまぁ、落ち着きなさい。人を見て挨拶もなく帰ろうなんて失礼だなあ。それに見た所その怪我の療養だろ?きちんと受けた方が良いと思うけどね」
くるりと踵を返そうとする少女の腕を掴む。「ひぃ…」と聞こえた悲鳴は無視して、そのまま片手で徐々に圧力を掛けていく。
「お互い用事があって来たのだから、まずはそれをきちんと済ますべきだろう?それからゆっくり話を聞こうじゃないか、なぁ」
「分かりました分かりました分かりました!だから地味に傷口圧迫するのやめてくれません!?きちんと話す気はありますからその良からぬ笑顔やめろ!」
「やめろやめろって要求が多いな、兎山」
「脅迫より優しいんじゃないんですかね!」
「とりあえず面倒だから逃げないでくれよ。また何でそんなことになったのか聞きたいだけなんだから」
腕の怪我諸々、包帯やガーゼを指差せば、「なら初めからそう言えよ」なんて言葉が聞こえてきそうな眼光で多々良を睨みつける。正面から見ると満身創痍に相応しい状態だが、正常な精神状態が見て取れてこっそり安堵する。少ない話し相手が狂人(期間限定)というのは勘弁したい状況だ。
「お互い終わったらここの喫茶店にでも行こうか」
「あー…分かりました…」
逃げるなよ、とは言わなくても伝わったようだ。
「義足の調子は良さそうですね」
…見た目こそ両腕は揃っているが、本来の機能を果たしていない左側は存外邪魔くさい。最終的にリスクを了承して手術した手前、義肢みたいに簡単に外してほしいとは言えない。
「話位は聞いてあげるよ、なんせ暇だからね」
無意識にジャージの左胸をまさぐるが、そこに内ポケットが無ければ当然煙草もない。代わりに、人一人殺していそうな仏頂面のまま、沙良がポケットから小さな棒付き飴を差し出してくるのを黙って貰う。苦さの代わりに含まれた甘味は吐きそうな位甘ったるい。
「それで、何がどうなった?」
あまり広くない部屋の中、勝手知ったると枕元近くの椅子に座ったかと思えば、ぽつりと「…騙された」とだけ零す。
「あぁ…」
うん、だろうね。舌先にまで出かかったそれを、思い切り噛むことで何とか阻止する。包帯だらけの存在自体が既に出オチだが、せめて黙って聞いてやろう。
「遺産そのものはきちんとあったし、その遺産にゆかりのある人達も皆いました。その時は普通に楽しかったんですよ。食事も美味しかったし、学者さんの話も聞けて…」
「うんうん」
「でも夜中に客人の一人が死んで、そっからおかしくなっていきました。ちなみに外は嵐です」
「うん…?」
海辺の洋館だと聞いてはいたが、一体何曜サスペンスが始まるというのだ。
「結論から言えば屋敷が流されて、更地になりました」
「お前、旅行の行く先々で色々ぶち壊すのにだけは長けてるなあ」
「おいこら、責任転嫁するな」
「ははははは」
あの計画さえ正しく実行されていれば、この娘がこんな大怪我をする羽目にもならなかっただろうに、と思えば「ざまぁみろ」と言いたくなる。折角飼ってやろうと思ったのに。
「遺産もパァ。一緒にいた人達も、本人だったのかどうかも怪しくて、結局警察には詐欺事件の一貫として扱われてます」
多々良さん
元教師。神話生物もどき
ツァトゥグァの食事が本来の役目を放棄し、独立した種の残骸。種族を拡大する為に拉致やら慎ましく数を増やしていた中で、丁度教鞭を取っていた個体である彼は修学旅行とかこつけて、担当クラスの教え子達を集落へ連れて行き、仲間にする為に悍ましき儀式をもって神話生物を憑依させていた
が、探索者サイドだった3名の生徒により目論見は打破。それどころか封印していたはずのツァトゥグァの給餌器が活動再開。これによるご飯(贄)集め再開から、集落に存在する種族が全滅という最悪の結末にされてしまった黒幕
今は、人よりかなり長生きな、衰退するだけの種族の哀れな生き残りである
尚、給餌器による猛攻で左脚が義足、左腕も動かない
元々落ち着いた大人の男性を体現した国語教師だが、事件後は兎山沙良相手に皮肉気な態度を取るようになった。ヘビースモーカーだが沙良に取り上げられている
兎山沙良さん
探索者。コナンくん並に神話生物事件とエンカウントする
多々良さんが先生の頃恋していたが、事件の真相を知って失望、失恋した。当時死にかけていた黒幕をおめおめ満足げに死なせてたまるかと助けて帰り、それ以降拾得物の管理は拾得主の責任としてちょくちょく様子見している
憧れていた大人への失望によりツーランクぐらい大人になった。大人への道は大人への失望である
APP16の美女だが、見た目で得したことは特にない
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