平和に行きましょう。
さん
その洞穴内に広がる光景は異常と呼ぶ他ないだろう。奥にも空間があるにも関わらず、入口付近の手狭な空間に二人一組となった80余人の落とし子らが、壁や地面などの洞穴の一部に頭を擦り付け一心不乱に祈り続けている。
これが、大婆や小枝が話した「両親」による子を得る為の儀式だと理解したのには、そう時間は掛からなかった。
「ここで、あなた達は自分の呪いを断ち切らないといけない」
「…どいつか、分かるのか?」
平坦で抑揚の少ない苗の言葉に、ある一点を見つめながら赤彦が聞いた。しかしそれは無意味でもある。誘蛾灯へ導かれるかのように、覚束無い足取りで進む沙良は、手を握り合って寄り添い蹲る一組の男女の前にやってきた。沙良と同じ黒髪の無骨な男性と線の細い女性は、胡乱な言葉を吐き続けながら側にやって来た自分の娘に気付かない。
「一目見れば、分かる」
“二人の男女が番い、子どもを作る感覚で親と繋がりを持った落とし子を定着させる”と小枝は確かに言った。あぁ、ならば子どもたる自分達は、自分の親が分からない筈などないのだ。苗に言われるまでもなく赤彦は自分の親を見つけ、その心の底から湧き上がる愛情に戦慄いた。
「… 、 …」
そのたった二言に込められた思慕は、親友の二人ですら理解することは出来ない。ただ、切望していた。喉から手が出るほど欲しくて、飢えて、渇望してきた存在が目の前にいる。
長年連れ添った兄、あるいは親友を超えるような愛着と、自分でも驚く程の忠義心。この世の何よりも愛おしい存在が目の前にいる。そのありふれた家族愛を、たった今感じているのだ。
「あ、はははっ」
驚きからこみ上げた笑いは軽い。足元に転がる血濡れた石により、頭を力任せに潰された骸は、本来ならある子どもの両親となる手筈だった中年の男女の成れの果てだ。
なんだ、あの子達はやっぱり意味が分からない。
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