平和に行きましょう。

ハイヤさん


 悠久の時を過ごすことが出来る者でも、退屈や孤独は天敵だ。それらは少し嗜む程度ならともかく、あまりに過ぎれば不老長寿の生き物であっても容易く心を錆つかせる難儀な病気だった。
 ハイヤは他の仲間のように人の世を完全に捨て去れるほど嫌ってはおらず、けれど人と混じって生きていけるほど柔軟ではない。孤独に心を病ませるのも退屈に死にかけるのも懲り懲りだ。そのどっちつかずで天邪鬼な性格を誤魔化す為にハイヤはそこそこに人里離れた山奥で、時々迷い込んだ人の子を人里に送ったりしている内に山の主だの魔術師だのと近隣住民に慕われたり疎まれたり、快適と不便を行き交う生活を送っていた。
 途中、懐かしい同胞を匿うこともあった。セスリーンはその血を狙われ、あの忌々しきアガルタの民どもから逃れる旅路の途中だったという。丁度居住地を変えようとしていたハイヤが目星を付けていた新しい場所へ誘い、何年か3人で暮らしていた。幼くも戦争に参加し、負担を掛けすぎたセスリーンには不定期の休眠期間が必要だった為、火急で信用出来る場所を欲していたキッホルは随分と気持ちが楽になったらしい。




「新任?新任はこの間来たじゃないですか」
「それが課外授業の夜、盗賊に襲われた時に逃げたそうよ」
「代わりに生徒を守った者を大司教が登用したらしい。私はエリスくんが担当すればいいと思ったんだがね」
 2人の見えない位置でエリスはこっそり舌を出した。嫌な予感がじわりとしていた。柔らかな物腰でいてレアは勢いで物事を進める。何が琴線に触れたのかは知らないが、その新任教師は余程気に入られたらしい。でなければ、側近で実質的に組織の運営を任されているセテスが焦ってエリスを紹介の場に呼び寄せることはしない。
「大司教殿に深いお考えがあるんでしょう。私もセテスさんにも呼ばれているのでご一緒します」
 務めて慇懃な言葉を使い、マヌエラとハンネマンへ微笑んでみせた。




 例の新任教師は、エリスが近くに寄って話しても悪印象は特に抱かない普通の女性だった。傭兵上がりというからもっと粗野で物々しい雰囲気を予想していたが、やや言葉数が少なめで抑揚のない口調を除けば逸脱して変人という訳でもない。身元が怪しいのは否定できないが、レアの一声がある限りセテスがクビにするのも難しいのだろう。
「ですが、傭兵の方に教師経験があるとは思えません。見下す訳ではなく、事実としてです。勿論身を守る術は大切ですが、それを教えられるだけの言葉と指導力があるのでしょうか?」
「それを貴方からこの人へ教えてあげてほしいのです、エリス先生。多くの生徒の迷いを導いた貴方の言葉と知識が必要なのです」
 他力本願か、と喉まで出かけた言葉を飲み下す。確かに突然登用された本人からも若干戸惑いは感じられた為、教えることは決して断らない。だが、無理やり教師にしたレアから言われるとそこそこに腹が立つ。
「なるほど。では、お話が終わり次第一緒に修道院の中を回りましょう。扉の外で待ちますので」

































































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