平和に行きましょう。

そのさん


 ジャックが住処としている廃墟に戻ると、少女はソファーの上ですうすうと穏やかに寝息をたてていた。まだ僅かに髪は湿気っている。
 赤い霧ではなく真白く濃い霧に囲まれた元紐育に来て既に3ヶ月は経った。初めは異界人の存在や超常現象が起きるHLに辟易し、暴動が背景音楽である中絡んでくる輩を死なない程度にあしらいながらヴェインへの帰還方法を探していた。だが調べれば調べる程、ここはジャックとセトと同種である吸血鬼が存在しない世界だとわかった。少なくともBOR寄生体もなく、ミドウもいない。つまりクイーンも生まれず、吸血鬼も生まれていないのだ。

 ジャックは吸血鬼だ。元は軍人で、人間を守る為に自ら志願し人であることを捨てた。だが、セトはそうではない。死を迎え、土の下で静かに眠っていた哀れな少女だ。吸血鬼としてもうこれ以上ない程戦い尽くした。だからせめて、この吸血鬼とは何の関係もない混沌の街で、この少女が傷付く羽目にならないよう守ると決めている。それが己の人間性を保つ方法だとジャックは自覚していた。


 この街で血を得るのはそこそこ簡単だ。何せ毎日流血沙汰の枚挙にいとまがないので、歩いていれば勝手に向こうから人間(餌)がやってくる。
「むしろ向こうより生きやすいよねー。人間と吸血鬼の数が逆転してるようなもんだし」
「得体の知れん生き物はいるがな」
「あれって吸っていいのか分かんないね…」
 初めは堕鬼だと思っていたが、人間と同じく食事をし生活しているのを確認してから、異界人という存在を知った。見た目は奇異だが、行動原理は人間とあまり変わらない。
「たいちょーは吸わなくていいの?今ならまだ寝てるよーこの人たち」
 セトの足元にはいかにもゴロツキらしいゴロツキ達が沈んでいる。
 HLを興味と好奇心で歩く人間は自ら観光客だと宣伝しているようなものだ。男たちがセトをカツアゲすべく選んだ路地はよりによって「死体処理場」とあだ名される場所だった。気絶させ、適当な場所に移動させてから迷惑料の血をいくらかもらったセトは気持ち膨れた腹をさすりながら満足気に一息つく。
「俺もさっき済ませた」
「そっかー」
 ジャックのつれない言葉に、ならばもう用はないとばかりに持ち上げていた腕を落とす。浅く切り傷を付けて吸う為、起きて傷口に気付いても吸血鬼に血を吸われたとはよもや思うまい。
「セト、用が済んだら帰るぞ。ギガフトマシフがこの区画に向かってきているらしい」
「住処壊されたらいやだねぇ」
「その時はまた探せばいい」




セトちゃん
バラバラ死体を繋ぎ合わせて生まれた誰でもない吸血鬼
名前と役目をくれたジャックが大好き。ぱぱー
チョコレートや甘いものも好き
ジャックと甘いものさえあれば正直どこでも一緒。病んでるどころかそもそも正気も狂気もない

ジャック
セトの過去を知っているし、なんなら頭部の持ち主である少女は生前の可愛がっていた知り合い。死体を冒涜され、死後も吸血鬼化されてしまい安らぎのないセトを見る度とても辛い。この世に救いなどなかった…
せめてしがらみの無いHLという街で静かな余生をと思っていたのにライブラに目をつけられて激おこプンプン丸
セトに手を出すやつ絶対殺すマン




























prev next
Back to main nobel