平和に行きましょう。
男と出会った日のことは大変良く覚えている。なんせ沙良の父と母と弟……あと親戚含めた一族etcが一堂に会して諸共死んだ日だ。そうそう忘れられるはずが無い。
沙良の一族は、簡単にまとめると海外のおぞましい神々を祀る宗教の信徒であった。何分古いだけが取り柄の敷地にある土蔵には、祖父の時代から金にものを言わせて集めた冒涜的な呪文や神々を記した書物がどっさりとある。祖父が海外の血が混じった祖母を娶って以来、親族一同は皆彼女より持ち込まれた神秘性に魅入られて、あまり人様には顔向けできないような儀式を行っていた。
そして沙良は直系の家の娘として生まれ、祖母に最も近い見た目だったことから最も尊ばれた。そして一族で一番発言力があり一番正気を失っていた祖母の鶴の一声により、沙良は祀る邪神の生贄にされることが決まった。
薄い皮膚の下にある柔い肉へと歯が突き立てられる。ぷつ、と僅かに食い込んで血が滲み出る端から舌で掬い取られ、舌先が擽るように、あるいは抉るように歯形の底をなぞった。
「」
笑いながら生き物を殺せる人間というのは、どう足掻いたって生き物として破綻している。そも、英霊として座する存在なのだから普通とは逸脱して然るべきものなのだろうが、それにしても沙良にとってアサシンは果たして本当に己に合った相棒であるのか甚だ疑問であった。
少なくとも、守ってくれる気はあるらしい。そうでなければ、召喚初日に沙良を殺そうとした血縁者全員を鏖殺するなどという凶行には及ばないだろう。だがその見返りとして大量の魔力を求め、結果的に肉体関係を結ぶ形になったのは非常に不本意であった。更に言うと、かの英霊は異様な執着を見せた。
「」
「どうにも、アレにとって今の私は2人目らしい。そして最初の私とやらを、目の前で失ったのか何なのかはさておき、不本意な形で失い敗北した。だからアレの目的は、私を守りつつ新しい戦いに勝つ」
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