平和に行きましょう。

妖精さん


 妖精という種族は人間と比べれば相当な長寿で、かつ気紛れとされている。寿命に関しては間違いなく長いが、しかし気紛れと称されるのは何となく釈然としない。そんな種族全体のイメージがやんわりふんわり雑な括りになるのは沽券というか、単純にダサい。

 例えば、ユスラという花に連なる妖精は、たった今絶賛進行形で監禁されている。正になう。
「いやーーーまいったー」
 虹の国と呼ばれる地域で、人間と同程度の大きさをしているユスラは物書きとして生活していた。そこそこ珍しさなどで注目されつつ、面白おかしく遊んで生きていたらまさかの誘拐。
 寝て起きたら全く知らない部屋。そこそこの広さのある普通の寝室で窓もあるっちゃあるが、外から雨戸が固定されているらしく無意味となっている。寝かされていたのはダブルベッド。人型で魔力がそこそこ強いユスラはそれなりの大きさだが、やはり人間に比べたらかなり小柄だ。なのでこのベッドは中々の広さと言えた。キングサイズとか最早小部屋なので、このくらいが好ましい。
 更に部屋を見渡すと、こざっぱりはしているが、誰かが住んでいる雰囲気がある。換気されて篭った空気ではないが、寝具や部屋に染み付いた匂いは消し切れないものだ。残り香程度に鼻につく煙草からして、男性の家だろうとは思う。
 この部屋でただ寝かされていただけなら、ユスラも「あちゃー倒れて介抱されたのかなー」と極めて好意的に見ることが出来た。何だったらお礼もできるだろう。
 でもこれ、知ってる。AVものとか出てくる魔法抑制用のチョーカーが装着されている。魔法士凌辱系のエグい設定とかで使う小道具ではなく、本物の魔法具。効力が強すぎたら魔力の取り込みと放出が出来なくて少々危うかったが、良くも悪くも中途半端な効力なので微力ながら巡らせることは出来る。でも魔法は使えない。正に生殺し状態だ。今のユスラは見た目通りの……いや、見た目以上に弱っちい生き物でしかない。



 恐る恐る扉へ振り向いた。振り向いて、後悔した。
 そこにいたのは男だった。黒いスーツを纏った体格の良い人間で、そこまでは良かったが、目が合った瞬間に「あ、これ駄目だ」と諦めた。
「あぁ……起きたんですか」
 ユスラが動かずにいると、男はそのまま静かに近付いて、ベッドに腰掛けてきた。節の目立つ指が頬を撫で、輪郭をなぞる。鉄と、火薬の匂いがする。
「状況をよく理解しているんですね。それとも単に呆けているだけか?」
 嬲るような声色だ。反抗心を根元から丁寧に削ぐ、警告を含んだ言葉を選んでくる。暴力に親しんだ人間なのは疑いようもない。



 男の輪郭を滑らせるように撫でる。清潔感のある人間は好きだ。剃り整えた顎髭を擽ると、猫のように目を細めて今にも喉を鳴らしそうな顔になった。
「首輪まで付けて、そんなに妖精を飼いたかったんですか?」
「貴方だからですよ。他の有象無象になんて興味はない」
 悪くない口説き文句だが、ちょいとチープだ。
「ふぅん。そりゃあ妖精は長生きで若いままですものね」
「例え明日老いて死ぬ生き物でも変わりませんよ」
「さっきより酷い。つまり貴方って、お花を愛でる為なら手折ってしまう人なんですね」
「だから言っているじゃあないですか」
 掌に熱い吐息が触れる。
「貴方を飼い殺したいんだ」




























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