平和に行きましょう。

そのに


 巻き上がる排気ガスと土埃を透けて、街の大通りを通る。荒っぽいエンジンと悪路による振動は、座席のクッションを突き抜けて、直接骨を叩いてくるようだった。
 大体車は富裕層や要職に就く人間の乗り物と相場が決まっている。並び建てられた街並みを突き抜けて走る黒艶の車は、辻馬車も並走する中で、それだけで一種の好奇心を集めた。1台2台ならそこまで珍しくなくとも、護衛をするように集まる群れとなれば、物々しい上に何事かと注目されるのも当たり前だ。彼女にとっては、箱型の乗り物に詰め込まれている時点で馬車と車になんの違いもないだろう。上座に座るその隣にフィリップが同乗しているが、窓に映るその仏頂面は和らぎそうにもなかった。
「………………………」
「………………………」
「………………………」
 心なしか、運転手でさえ固唾を飲むような沈黙が車内に充満している。
 かの大佐から、陛下のご機嫌取…もとい、お相手を仰せつかったのは良いが、しかし口を開く気配すらない相手にどう機嫌を取ればいいのかも分からない。ただ退屈とも言えない緊張を味わうしかなく、車に乗り込んでから既に小一時間が経っていた。街並みは官庁街に移り変わりつつある。目的地からそう遠くはないだろう。
 陛下の表情はともかく、出で立ち自体は通常の礼服と変わりない。矮躯に沿ったそれは、おおよそバランスの良さを追求した末に軍服としての威厳を失っているようなものだ。銀を基調にした飾緒など、その豪奢さ故に胸部埋もれてしまうようですらあった。
「どうした?」
 切れ長の黒目が、流れるようにこちらを見た。硬い声色は不機嫌とも取れるが、本当に不機嫌ならそもそも口を開くのも面倒臭がる。
「マノア、お前が何を言おうが犬の鳴き声と変わらん。黙られてる方が鬱陶しい」
「は、はぁ…。本当に良いんですか?」
「良いよ」
 女王陛下付きの政務官になったとはいえ、元はただの平民生まれであるフィリップの言葉は相応に雑だ。それこそ大佐殿の前で、陛下へこんな口を開こうものなら、即座に叱責と平手打ちは免れない。しかし彼女はそんな綱渡りのような行為を大層好んでいて、大佐のいない場であれば大概死罪になりかねない言葉も寛容に受け流す。
 要は、フィリップの首の価値はそんな程度なのだ。
 だから、許される内に口を開いておく。
「え、と…。その軍服は、陛下には重たくはないのでしょうか?ほら、飾緒とかたくさん着けてますし、生地だって重そうだなぁって…」
「別に」
 にべもなく一蹴されてしまう。
「着るのは面倒臭いけどね。お前のそれだって、私からすれば重っ苦しいが、別に肩は凝るまい?」
「そうですね」
「そういうことだ」
 



































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