平和に行きましょう。
蘭と山桜桃2
いくら山桜桃が適当な人間といっても、蘭 夜行のような見た目の男がそうホイホイいるとは思っていない。
殆ど見えてないらしい左目とその傷跡。首の周りや上半身をぐるりと覆うタトゥーの数々。そのどれもが「普通のサラリーマン」とはかけ離れていて、なんというか、むしろこの人と一緒に仕事が出来る他の社員たちのメンタルが気になって仕方ない。
「おっ、山桜桃さん久しぶりですね!原稿の持ち込み以来じゃないですか」
「東洞さん、どうもです。やーほんと、東洞さんのお陰でご飯食べれてます」
「あの時のお嬢さんが今や先生になったと思うと、確かに感慨深いですねえ。今の編集者とうまくやれてますか?」
「んー、蘭さんとはそれなりにやれてると思います」
「あぁ、そいつはよかった。あの人、タトゥーは何とか隠してるみたいだけどやっぱり顔と態度が怖いでしょう。他の担当してる作家さんたちと、険悪とは言わないけどかなり淡白みたいなんで、山桜桃さんと相性大丈夫か心配だったんですよね」
「あーだったら割と普通ですかね。限界近いとご飯作ってくれるんですけど、めちゃくちゃ美味しいし」
「えっ……誰がご飯作るって?」
「へ?蘭さんですよ。作り置きまで考えてくれるから、最近コンビニで買わなくて済みます」
「蘭さんが料理得意なのも今初めて知りましたよ……。はー、胃袋掴まれたってやつですか」
「美味しい」
「それはよござんした」
「というか、他の人に淡白なんです?あの人」
「さっきも言いましたけど、確実に山桜桃さん程打ち解けてないでしょうね。お互い仕事はきちんとこなすみたいなんですけど、それだけ。でもま、作家さんが萎縮してないってことは上手いこと立ち回ってるってことでしょうし、効率的っていえばそうなのかな。顔怖いけど」
「蘭さん怖いですよねー。ちょっと旅行しただけでトランクに詰め込んでくるんだもん」
「そら連絡しなかった貴方が悪いけど、どんな捕獲のされ方されてるんです」
「お、蘭さんどもども。取り立て完了ですか」
「東洞さん、こんにちは。何です、取り立てって」
「いやぁだってヤクザみたいじゃないですか、いかにも恫喝し慣れてそうな雰囲気だし。で、作家さんの所から戻ってきたんでしょう?」
「無事原稿は頂きました。えぇ、そりゃあもう穏便に」
「いやー蘭さんが行くと皆さんえらく素直になって下さるから楽になりました」
「東洞さんも、外回りから戻ったんですか」
「あぁ、はい。というか、山桜桃さんとさっきまでお話ししてたんですよ」
「あの人今日外に出るなんざ言ってなかったのに」
「誰だって気分で外出しますよ。それで途中あなたの話になりまして」
「はぁ……」
「随分仲良くされてるみたいで安心しました。よくご飯作って差し上げてるんですっけ?いや、意外な一面が知れましたね」
「あぁ、カロリーメイトを主食にしてるのは流石に死ぬだろうと思って。一回手を出したからには最後までと言うでしょう」
「あの人は猫ですか」
「元々さして食に拘りがなかったのが良いのか悪いのか、結構作れば何でも食べてくれるのが先生のいい所ですね」
「そうですか。確かに、前よりかなりふっくらとされてましたけど……あいや、太ったんじゃなくて健康的なフォルムにって意味で」
「本当、あそこまで肉を育てるのには苦労しました。最初の頃とかなんて、内臓が弱っちくってしょうがなかったですし。最近やっと1人前食えるようになったんですよあの人」
「山桜桃先生と蘭さんってデキてるんですかね」
「あーーー……どうなんでしょうね。蘭さん、かなり入れ込んでるみたいだし。あの人が作家さんのお世話してるのとか未だに信じられませんよ」
「それを許してる山桜桃先生も珍しいですよ。蘭さん来るまで担当編集の名前もろくに覚えてこなかったのに……ああいう男性が好みなんでしょうか」
「割と見るからにヤクザな感じとか、刺さる人には刺さるんでしょうね。あの人、腹筋とかバキバキですよ。リンゴ片手で潰せるそうです」
「は?42歳ですよね?」
「いやぁ……我々とは違う世界の人間です……」
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