平和に行きましょう。
柔らか
柔らかな砂浜にヤシの葉を幾重にも敷いた寝床は、簡素で野趣あふれる寝床だが快適だ。意外とふかふかで柔らかなクッションで、暇を持て余してごろごろとする分には有能だった。
しかし暇と言っても、強烈な日差しを防ぐヤシの木の下、ダメ元で海に仕掛けた梁を見張るという役目はある。体良くまた留守番させられているのだが、賢くて優しいソウは特に何も言わずにハイヤを見送ってあげた。
ハイヤの旅荷物の中にある銃火器は2つだけだ。猟銃として使う散弾銃と、軍部施設の偵察に使うハンドガン。
完全に廃墟と化した街でも、偵察機や防御機構の生きている軍部施設はそれなりにある。そういうのは大抵機密の都合で地下にあり、地表の廃墟からそこへ侵入すると、時々見回りの偵察機に気取られることがある。上位防衛機のアンドロイドまで稼働していれば最悪だが、それでも逃げれば終いの話であるので、ハンドガンを片手に大立ち回りをする程でもない。
問題は、生きた人間がいた場合だ。
ライフラインが独立、確保された施設内でひっそりと隠れ住む人間こそが、ハイヤの中で最も明確に警戒すべき存在だった。そう滅多に生き残りがいるものでもないが、しかし一度だけ、孤独に侵され妄執の果てに狂った人間と出会ったことがある。一言で言うならそいつは災厄だった。長年独りで機械に囲まれ暮らしたそいつは、持て余した時間を使って統率命令権からシェルターの殆ど全権を掌握していた。軍服を着ていた辺り、軍人だったらしい。そして有り余る手足となった機械とその人間の執念に追い掛けられたハイヤは、手っ取り早く狂人の頭をぶち抜くための銃と、人質にならない為にもソウを地表の安全な場所に置いていくことを肝に銘じた。
ずっといてほしいアンドロイド達
ずっとずっと前から主がいなくなって、誰も見なくなって、一体自分たちは誰を何から守ればいいのか分からなくなっていた。
大佐だ、大佐がお戻りになった。
ずっと待っていました。さぁ、ご命令を、なんなりとして下さい大佐
向こうの魔法使いの村を焼きますか。それとも捕らえた捕虜の拷問ですか。さぁ、さぁ、さぁ
私たちに命令してください、大佐。
幼馴染み(大佐)のドッグタグがソウに正式に譲渡されている為、アンドロイドたちはソウを大佐と呼び忠実(?)に振舞おうとする
しかし長年兵器としても護衛としても使われなかったアンドロイドたちは既にその在り方から大きく外れ、自我すら宿っていた。本来アンドロイドの自我は「バグ」扱いで、使用期間の5年を経つとそれが芽生える可能性が高くなる為破棄される。しかし破棄されず運用され続けてきたアンドロイドたちは、使われることを望みソウへずっと留まるよう乞い願う
けして留まらず、なんの命令も下さず望み通りにならないソウへ鬱屈が溜まったアンドロイドたちは、傍にいるハイヤに目をつける。ハイヤを捕らえて成り代わり、ソウへの説得材料にする
しかしソウの魔法について否定したことから見破られ、またハイヤを始末しようとした所を見られた為逆鱗に触れることとなる。魔法の炎でアンドロイドを屠るも、自らの行いに自己嫌悪する
何故アンドロイドがあんな振る舞いをしたのか、ハイヤが教える。機械の自我はバグであると。そしてソウの魔法はあくまで優しいものだと教える。優しいのだから、逸脱しないようにと
非常に後味は悪い
「…おじさんはそんなこと言わない」
抑揚の抜け落ちた声。
「ソウの魔法を使うなって言うわけない。危ないからやめろっていうことはあるけど、魔法をバカにしたことなんてない」
「お前、おじさんじゃないな」
「テメェら、ここに配属されて何年だ?もうとっくに指定された使用期限も過ぎて、自爆も廃棄もせずに何してやがる」
「うるさい、うるさいうるさい黙れ!!」
「大佐の為?人に使われてこそ?笑わせんな廃棄物共!とっとと壊れねぇでうだうだ任務だ遂行だほざいてるし時点で、ここにいるお前ら全部とっくにアンドロイド失格なんだよ!!何が大佐だ、アイツいつの間にか出世してこんな七面倒な置き土産していきやがってふざけんな!!」
「俺たちは兵器だ!!何にも使われずにこのまま朽ち果て死ぬのが役目!?そんなのいやだ!!いやだ!!」
「それにソウを巻き込むんじゃねぇっつってんだよ!!話聞けダボ!」
「大佐は我々を使うべきだ!!戦いの中で私達を使ってもらわなければいけない!!永遠に!永遠に、私たちの最後の一体が死ぬまで!!!」
「叩いても直らねぇボロ屑程度がご大層な死に際妄想してんなァ!!寝言は寝て言え!!」
「その人に触れるな」
「……何しやがったんだ、このボロ屑共」
ぺたり、と素足が床を踏む。霜が降り、凍てつく冷たさにまろい足はとっくに赤く腫れ上がっている。ソウが入ってきた扉から、外がとんでもない有り様になっているのは確認できた。
柱のようなそれは、凍らされたアンドロイドの体だ。如何にあらゆることを想定され作製された兵器も、脳髄の芯まで凍らされてしまえば機能停止にならざるを得ない。恐らくソウを止めようとしたのであろうそれらは、酷く奇妙な氷像のように固められていた。
吐息が白く濁る。既に鼻の奥までキンと痛くなる程の寒さだ。
「ソウ、落ち着け。ここだ、ここにいる」
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