平和に行きましょう。
撃った
そして、男は撃った。
持っていた散弾銃から射出された弾は音よりも速く、アンドロイドの頭部を破壊して、人工脳と冷却水をぶちまけた。
「おい、ケガは」
「うん…だいじょうぶ、びっくりしただけ」
動かなくなったアンドロイドから目を離さないまま、後ろでひっくり返った少女を助け起こす。
「急に動いたからびっくりだよ、ほんと。なんだったんだろ?」
「機械のバグなんざ知るか。これ以上何かあると面倒だ、勝手に離れるなよ」
「はぁーい」
『稼働から3650日目。天候は曇り。私は車道に転がっている』
『体が動かなくなってから、既に10日と18時間が経過していた。助けなどない。当然だ。巡回用の警備小型ドローンは一定周期で回ってくるが、私のような人工脳など積まれていない。ただあるべきルートをそのまま進む監視カメラだからだ。壊れたアンドロイドを修理するような機能も、役目もない』
『他のアンドロイドはしばらく見ていない。本来の消費期間が訪れて尚、自損が出来なかった我々はただ無為に時間を過ごすほかなかった。そして修理せず、壊れるがままにすれば、いつかは機能を停止する。この街には、そうして“死んで”いったアンドロイドばかりいる』
『稼働から3847日目。天候は晴天。足の機能が完全に故障した。冷却水と油が指の隙間から漏れ、筋肉を動かすだけの必要分が失われたからだろう。感覚というものはないが、棒のようになった足は存外邪魔だ』
『地面に刺さったままの腕に植物が絡まり始めている。悪い気はしたが、支柱になるのはいやだったので引き抜いた』
『稼働から3857日目。天候は晴天。とうとう右目も調子が悪くなってきた。これて故障箇所は足、膝、脊髄、左擬似鼓膜、右目となった。とはいっても、とうに同じ景色を眺めるだけの日々に片目が失われようと不都合はない』
『相変わらず、他のアンドロイドは見ない。とっくに死んだか、まだしぶとくどこかで生きているか。どちらでも良いが、せめて川や木々を汚染しない所で死んでいて欲しい』
『次にこの地に住むかもしれない人間の環境を、わざわざ汚すこともない』
『稼働から4090日目。天候は雨。今日は懐かしい映像を思い出した。10年前の、あの日だ。人間でいう、夢のようなものかもしれない』
『10年前、まだ稼働して440日程度だった私は、自我のない忠実なアンドロイドとしてこの街にいた。ごく普通の労働用だ。本屋で、人間の為に働いていた。外では戦争だという声が聞こえていたが、私はただのアンドロイド。なんの関係もなかったはずだった』
『戦争は、長く続いていた。魔法使いとそうでない人間が対立して、互いに滅ぼしたり滅ぼされたりしていた』
『そして、ついにこの街が戦場になった。戦えない子どもや女性は地下シェルターや他の地域へ逃げることになり、瞬く間に人がいなくなった。代わりに軍隊が来て、戦闘用の装備が搭載されたアンドロイドが配備された。自我などなく決められた行動しか取られなかった私は、邪魔だからと言われて軍人たちにバリケードの素材にされていた。結果的に言えば、そのお陰で今まだこうして生き長らえているのだが』
『この街の戦闘は、一瞬で終わった』
『魔法使いは、何をしたのだろう。何かをしたのだろう』
『アンドロイドでない、生身の人間達が突然苦しみだし、干からびて自重さえ支えきれずに倒れ伏して死んでいくのを、固められていた私はただただ見ていた』
『』
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