平和に行きましょう。

見習い乗っ取られた


「それでは、貴方のいた本丸が見習いに奪われたと?」
 右手に蜻蛉切。左手にへし切長谷部。
 そんなちぐはぐな二振りに挟まれて両手を繋いで目元を赤く腫らした小さな女の子がこくりと頷く。
 この不思議な3人組が政府へ現れたのは唐突だった。蜻蛉切がこの子どもを抱き抱え、へし切長谷部が担当の役人を呼び出してほしいとアポイントを取り始めた時点で相当な事が起こったのだろうと傍目にも分かった。よくよく見れば子どもの手が縋るように握りこまれ拳が白んでいたことも、肩が微かに震えて嗚咽が漏れていたことも気付けてしまい、余計に物々しい。
「見習いは、初めに呪具を使い本丸の連中を取り込み始めた。恐らく洗脳の類だろう、霊力を塗り替えようなどと戯言はこの主には通用しないからな。ゾウリムシが鯨を食もうとするようなものだ」
「なるほど」
 へし切長谷部が状況の詳細を話した。明らかに落ち着いていない幼い審神者よりも余程現状をまとめられる為、代弁することは助かった。
 呪具など所詮は一時の力である。初めこそ恩恵を受けるが、それが薄れてしまえばあとは自力でどうにかする他ない。つまり洗脳を行ったところで、理性を取り戻す前に見習いが霊力を自力で全て塗り替えない限り、その本丸の彼らが激怒するのは目に見えている。
 乗っ取りとは、ローリターンハイリスクな賭けに等しい。よしんば成功したとしても、手に入るのは他人の手垢が付いた本丸に偽りの忠誠心である。それで満足するような人間ならそれまでだが、実際の所、病むケースもあるらしい。自業自得だが。
 今回がどんな道を辿るかなんて、どうせ禄でもないに違いない。それなら、この子どもの行く末を丁重に決めた方が余程に有意義だろう。
「一度現世のご実家に帰られてはいかがですか。沙さんの本丸の調査は引き続き行い、必要なら新しい拠点を用意します。いずれにせよ、今は時間が必要でしょう」
「主が帰還なされる場合、自分たちは着いていけるか?」
「護衛という形で着いていくことは可能です。が、事前申告外の地域への外出は審神者同伴でもいけません。必ず申告した地域でのみ、活動するように」
「承知した」























「はーせべー。柿めっちゃ採れたー」
 そう言ってぱたぱたと作務衣の袖を振りながら走り寄ってくる子どもの両手には、確かに編み籠にたんまりと山を作る柿があった。おおよそ、蜻蛉切が煽てられるままに採ったのだろうが、にしてもここ数日で食べるには不安になるような量である。
「立派な柿ですね、主」
「ん。蜻蛉切が採ってくれた」
「すまん、少々調子に乗ってしまった」
 遅れてやってきた蜻蛉切が、頭に付いた葉を払いながら苦笑する。
「安心しろ、食べ切れなければ干し柿にするまでだ」
「柿ゼリーとかタルトとか作れる?」
「ではそのように」
「なら自分は、柿の葉で茶を作りましょう」
 八つ時のメニューが自ずと決まり、子どもが嬉しそうに笑う。以前よりやや言動が幼くなったが、12歳の子どもと思えば寧ろ相応だ。
 以前に比べればそう広くはない庭を仰げば、必ず大きな柿の木が見える。気紛れに葉と実をつけ、たわわな甘柿を与えてくれるのだが、いかんせん時折豊穣が過ぎる時もある。長谷部には、それはこの愛情の匙加減に疎い幼い主の写身のようにも思えた。
 


















































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