平和に行きましょう。
コナンff
子どもが日々背負うランドセルが、その可愛らしい印象に反して実は結構凶悪な鈍器になり得ることを知っている人間は割と少ない。そもそも使用者が大人よりも遥かに小柄な12歳以下の児童であるし、そもそも振り回して凶器化する必要がない。精々ふざけた男子児童がぶつけ合って遊ぶ位だろう。
だから、丁度下校中だった江戸川コナンとその隣にいた灰原哀は、目の前で同級生である少女、サラ・マグノリアが全身をバネにして、艶やかな赤いランドセルを鋭く振りかぶった瞬間をまるでスローモーションで切り離して眺めているかのような感覚で目撃した。
まるでナイフを一閃するかのような身のこなし。子どもの柔らかな筋肉による遠心力をフルに乗せた体感重量は如何程か。不審者の男の無防備だった脇腹へクリティカルなヒットとなったそれは、およそ子どもの持つランドセルとしてあってはならない鈍重な音と破壊力をもたらした。えげつねぇ、とサッカーボールで似たようなことを良くするコナンは反射的に顔を引き攣らせる。
「っぐぁ…!?」
「おそい」
地面へ無様に倒れ込んだ男はすぐ様体勢を戻そうと両手を突くが、立ち上がる前にサラが二打撃目を繰り出した。今度は背中への殴打である。胸部から地面に叩き付けられ、反射的に肺の空気が吐き出される。強制的に作られた隙に、サラは持っていた体操服の巾着の紐を片方だけ伸ばして、手早く器用な所作で片手と首を纏めてしまった。相手が混乱しているので、ついでとばかりに靴紐を解いて両足で括りつけていた。最後だけやる事は子どもの悪戯だが、あまり馬鹿に出来ない効果はある。きっと常習犯ね、と見かけに寄らない同級生への蛮行を冷静に分析している哀は、もしかしなくても現実逃避していた。
「おっ、オレが何したってんだよぉ!?」
「いたいけな子どもに鼻息荒く近付いた時点で9割方アウトなの、おにーさん。何かされてからじゃ遅いから、自衛するのよ」
ご尤もだが、弱冠7歳が大の大人を教材で制圧するのは、果たして自衛と呼べるのだろうか。
サラ・マグノリアの印象は、コナンにとって影の薄い一クラスメイトの1人だった。何せ登校自体が1週間に半分教室にいれば良い方で、よく家庭の事情で休んだり、いてもすぐ早退したり、不登校児の一歩手前だったからだ。
小学校の中でかなり目立つ風貌だったのも、休みがちな理由の一つかもしれない。珍しいピンクベージュの淡い髪に、金色の目。その上性格は引っ込み思案で人見知り。生意気盛りな子どもからすれば恰好の獲物だろう。教室にいても特定の友達はおらず、本を読みふけっている姿位しか見たことがない。
だから、その影の薄いクラスメイトが鈴木家主催の大規模なパーティに、綺麗に着飾ったワンピース姿なのを見つけてしまい、つい驚いて大声を出してしまった。そうなれば側にいた園子や付き添いで招待された蘭も、ついでにくっついて来たコナンへ訝しげに疑問を持った。
「どうしたの、コナンくん?何かあったの?」
「えっ、あ…えーっと、その」
サラとの間には結構な距離があったが、カクテルパーティ効果かばっちり気付いてしまったらしい。コナンを見つけて、「どうして?」と言わんばかりに大きく目を見開いていた。そしてぴゃっとそばに居た男の人の後ろにに隠れてしまい、遅れてやってきた罪悪感に口がモゴモゴ動く。しかし、やましいことはないので一応素直に答えておく。あらぬ誤解を招きたくはない。
「あのね、そこに同じクラスの女の子がいたんだ。ほら、あそこの白い髪のおじさんの後ろにいる」
指差しはマナーの悪い仕草なので、目立つ人の特徴を上げて教える。つられて2人がそちらに目をやると、同じように男の人もコナン達を見つけていた。どうやらサラの様子のおかしさについて色々察したらしく、真っ直ぐこちらに向かってくる。今度は園子がやや臆したように息を呑んだ。
「ちょ、ちょっと、あの人ガーロンド会長よ。ガーロンドアイアンワークスのトップ。今回うちが出資した超大物」
近年世界に名を轟かす有名企業の名前に、逆にコナンが目を見開く番だった。その会社は、とにかく簡潔に説明するなら「技術者集団」だ。科学なら節操なく何でも取り組み、学歴職歴貴賎問わずに数多の有能な技術職を抱え込んだトンデモ企業。目から鱗の新技術を発表するわ、独自技術を編んだ自動駆動人形作るわ、温故知新とあらゆる遺跡を発掘調査して発見してるわ、何を目指しているのかはさておき、その大企業トップのシド・ガーロンドは、卓越した頭脳と手腕で世界に喧嘩を売るともっぱらの評判である。
「あの子ガーロンド会長のご令嬢?結婚なさってるって話は聞いたことないけど…」
「僕もあんまり話したことないから、知らないなあ」
とうとう会話出来る距離になり、園子が居住いを正す。蘭もコナンの手を引いて、その脇に逸れる。
「そこの坊主がサラのクラスメイトなんだろう?無理矢理引っ張り出したせいか、うちのお嬢さんはご機嫌斜めでな、良ければ君たちの側にいさせてやってくれないか?」
「はい、勿論!」
快諾した園子の手前、サラは素直にシドの後ろから出てきた。元々コナンと同じ位で、人形のように可愛らしい女の子が園子の側に寄って「よろしくお願いします、園子お姉ちゃん」とはにかんだ瞬間、それは確かに母性を全力で擽る可憐さに溢れていた。ついでにその隣にいた蘭も陥落した。
「サラ、挨拶回りが終われば迎えに行く。それまで彼女達と一緒にいてくれよ。それと、ネロには気をつけろ」
「はぁい。いってらっしゃい」
まだ注意し足りなさそうな顔のままシドはそのまま離れていった。見えなくなるまで見送っていたサラだが、背伸びしても見えなくなった途端に園子たちへ花が咲いたような笑顔を見せた。
「改めてよろしく、サラちゃん。こっちは私の同級生の蘭。ガキンチョは、クラスメイトだから紹介不要よね」
「よろしくお願いします、蘭お姉さん。コナンくんも、今日びっくりしちゃったわ。知り合いがいるって思わなかったもの」
「はは…こっちも、クラスメイトのお父さんが有名人だって知らなかったや」
あまり話してこなかった為、サラの言葉遣いや性格に触れるのはこれが初めてだった。さりげなく揺さぶりをかけると、サラはきょとんとした表情になった。
「シドはお父さんじゃないよ。おじさんの上司」
「おじさん?」
「うん。お父さんとお母さんが、私が凄い才能持ってるから、それを伸ばしてもらう為におじさんの所にいるの。それで、シドと皆が色々教えてくれる」
「贅沢な英才教育だね…」
それはつまり、世界最高水準の頭脳に取り囲まれているに他ならない。それは学校も適当にしか来ないし、不用意に家庭について話したがらないに決まっている。下手をすれば誘拐待ったナシだ。
「コナンくんは、お父さんとお母さんと一緒じゃなくて寂しくないの?」
コナンが似たような境遇だと分かってから、サラの遠慮は取り払われたらしい。近くの人に頼んで取ってもらったケーキを小さく切り分けながら、サラは小首を傾げている。
状況が似ているとはいえ、元々17歳の高校生として今更親が恋しいと思う気持ちは、思春期も含めて薄いだろう。しかし高校生が小学生へと縮むなんて魔法の如き事象なんて知りもしない人間からすれば、同じ歳なのに親が側にいなくても全く平気というのは、あまり健全とは言い難いのかもしれない。返答に困っていると、サラはそれを答えと受け取ったのか「凄いね」と賞賛するように目を輝かせた。
「サラちゃんは寂しいの?」
「寂しいというか、」
言葉を整理するように、サラが1拍置く。
「あんまり一緒にいた思い出がないから、よく分からないかも」
「そう、なんだ」
「でもネロたちといるから、やっぱり寂しくないかも。アルファもいるし、側にいなくてもマメットがあるもん」
持っているマメットの種類を嬉しそうに指折り数えるサラの腕の中で、アルファという名前の黄色い鳥のぬいぐるみが揺れる。それが鳥なのか何なのかはさておき、ガーロンドアイアンワークスがたまに使うマスコットの可愛らしいでっぷりとしたアルファは、柔らかそうな身体で鎮座している。マメットも、同社が独占販売する不可思議な「持ち主に着いてくる人形」だ。単なる玩具だと馬鹿に出来ない精巧な作りで、リアルな動物からファンタジー、果てはSFの乗り物など種類は多岐に渡る。実在の人物を模した物もフルオーダーで注文可能、もちろんミニチュアサイズだが、これもかなり人気らしい。ちなみに結構な数の人たちが決して安くない高級玩具のそれらを解体して技術を拝もうとしていたが、かなり特殊で意味不明な内容物ばかりで、そもそも技術体系が違うと言われている。特に心臓部分に存在するガラス玉の用途が不明だそうだ。
自社製品とはいえ、世の子供が垂涎するだろうそれらを与えられているサラは、社内で相当可愛がられているようだった。ただ、コナンは社長や養父の形をしたマメットの需要についてだけは、引きつった笑いななった。
もしもサラさんが幼女(記憶無し)だったら
サラさん(7歳)
ピカピカランドセルと日本の将来を背負う小学校1年生。人見知りで引っ込み思案。アジア系だが異国風の出で立ちでかなり周囲から浮いていて、それを自覚しているから更に人見知り。色の薄いピンクベージュの髪で注意を受けても、これが地毛だから堂々としている。一定ラインの頑固さはある
性格と口が悪いおじさン()と暮らしているが、社員寮住みなので色んな人に育てられていると言っても過言ではない。たまに会社のトップの膝に座って宿題と技師の英才教育を受けている。会長代行のお姉さんを凄く慕っている
超える力で言葉の壁が基本的にない。米花町に来てから死体に対して頻繁に過去視してしまって基本的にふらふら。事情の知らない人からはか弱い女の子扱いされている。外出する時によく黄色い鳥のぬいぐるみを抱いている
おじさン()
色々アレなサラさんの親戚。自己防衛を謳ってサラさんに多彩な防犯グッズという名のオモチャを渡している。今の所諸々のデータ収集は上々
倫理的にアレなオモチャ
・音は鳴らないけど、抜いた瞬間関係者各位に即座に座標とGPSが送られる防犯出来てないブザー。ちなみに既に何度か活躍している
・ペン型催涙スプレー
・たまに乗せてくれる赤いバイク。タイヤや足回り強化済み。強い
・魔改造済ランドセル。重さが調整されている。ガーロンドアイアンワークス一同からの入学祝い
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