平和に行きましょう。
こわいさにわ
この本丸には、審神者が二人いる。正確には、本丸の主兼指南役の審神者、その下で研鑽を積む弟子の見習いの二人だ。
審神者は四十路半ばの男で、無愛想な性格ではあるが手入れは丁寧、本丸の炊事掃除何から何までこなし、更に剣術にも長ける者として刀剣男士からとても慕われている。
そして見習いは、数年前現世に一時帰還していた彼が連れてきたのだ。真新しい白が眩しい胴着を着た十代前半の少女は元々審神者である男の養い子で、育て親に似て無表情だったが性根は優しくすぐ刀剣男士達と打ち解ける事が出来た。
「そぉい!」
あぁ、今日も元気でいらっしゃるなぁ。
ぽかぽかと陽気な日差しが差し込む縁側でこんのすけは、スローモーション補正が掛かった意識の中何が起こったか分からない和泉守が青空を飛ぶ様を、まるで成長した孫を見るような眼差しで微笑ましく眺めていた。
この本丸にやって来た当初は短刀達の鬼ごっこにも追い付けなかったというのに、今では率先して鬼として本丸を縦横無尽に駆け回る日々。喧嘩をする程仲の良い和泉守や鶴丸とのやり取りも日常茶飯事で、ここ最近は仕掛けられる前に事前に落とし穴へ嵌めたりと徐々に上手となり始めている。
和泉守が流れるような動作で叩き込まれたのは鯉が憩う池。大人一人に相当する重量を飲み込んだ池はそれはそれは見事な水柱を上げ、ほんの一瞬空に美しい虹を作った。
「こんのすけ、一本背負投げ出来たー」
「えぇ、見習い様、見ておりましたとも。見事な一本背負投でございましたね」
「俺で試してんじゃねぇ!」
和気あいあいとこんのすけへ話し掛ける見習いへ、自力で這い上がってきた和泉守が一喝する。しかし見習いはさして気にした風もなく「結果オーライ」と親指を立てた。過程もへったくれも無ければ何一つとして良い事は起きておらず、恐ろしい程にマイペースである。
「これなら先生も投げられるかな」
「審神者様は和泉守様よりお強いですからねぇ」
「おいこら狐どういう意味だ」
「お言葉通りですが」
「和泉守様、強いよ」
「ほら見ろ、見習いは分かってるな」
「先生が一番強くて格好いいけどね」
「流石見習い様、清々しい程の手の平返しでございます」
ちなみにこのこんのすけ、他の本丸のこんのすけよりもやたらと慇懃な態度なのには訳がある。当初この本丸に主たる審神者と共にやって来たのだが、この審神者が「働かざる者食うべからず」を地で行く自他共に厳しい男だった。本来サポート役に徹するのみで本丸の運営には関わらないこんのすけをそれはもうこき使った。審神者の鬼のような気迫を恐れたこんのすけは掃除や刀剣男士達の内番を汗水たらして手伝い、そしてその見返りとして油揚げなどの食事、柔らかい座布団の寝床を与えられてきたのだ。
他の本丸より厳しい環境だが、その分努力して働けば評価はされる。つまりこの本丸の審神者を侮る隙はなく、敬意を払うに値するからこそへりくだるのだった。
…あと下手に審神者に楯突くのは肥溜め行きだと知っているからではない。多分。
審神者の恐ろしさを知っているという意味では、この見習いの少女はかなりの怖いもの知らずになるだろう。何せ審神者に真っ向から反論し、阿鼻叫喚の鬼ごっこが開始されても見事一日逃げ果せられるからだ。厚樫山にて猪狩りをし始めた時には、流石に本丸中が蜂の巣をつついたような大騒ぎとなったが、今では良い思い出だろう。
審神者(師匠)
文武両道の怖い人。鬼のように強い
見習いの少女の保護者。小娘呼ばわりなのは元々だが、本丸では真名を明かせないのであんまりどやかく言われない
弟子として少女へ厳しく接しているが日記(本音)ではとても可愛がっている。手放す気は一切今後無い
審神者をしている理由は「ありとあらゆる刀との手合わせが体験出来るから」
見習いの少女(弟子)
師匠を超える為に育てられた子。馬鹿みたいに強い
出自不明で審神者曰く「拾った」。剣術の才能があり、運動神経に優れる
武道一辺倒に育てられたせいで表情筋が硬く、自分の考えを口を出すのが苦手。だって師匠が先手打ちまくって話す必要がないんだもの
師匠をお父さんと呼びたい今日この頃
政府役人
審神者の担当者。辣腕の手際でどんな不祥事も揉み消す
新人当時「担当潰し」と恐れられていた審神者の担当にあてがわれ、捨て駒同然だという周囲からの評価から裏腹に、五年間何事もあっても揉み消しながら上手に審神者に関わってきた凄い人。審神者のお陰で評価されて出世し、審神者もこの人のお陰で好き勝手出来る相互扶助の関係
見習いに一目惚れし、幾度となくアプローチを超えたプロポーズをしているが審神者とその刀剣に阻まれている
prev next
Back to main nobel