平和に行きましょう。
つよいさにわ風邪
「師匠、お粥が出来ました」
「…この私を病人扱いするとは良い度胸だな、小娘」
人を数人射殺せる眼光に晒されながら、見習いは静かに肩を竦めるだけで審神者の枕元に座った。平時ならば仕出かした粗相の謝罪でもしただろうが、今審神者は布団と縄により簀巻きにされているのだから怖がれという方が難しいだろう。
「ですが師匠は今、霊力と生気をかなり消耗されている筈です。いつもならその程度、抜け出せるのに」
「小賢しい蟲が食い潰しているに過ぎん」
「とりあえず今は召し上がり下さい」
警戒心を露わにする虎がしばしばそうするように、凄まじい形相で牙を見せる審神者をよそに見習いはテキパキと食事の準備を整えていく。常の審神者なら、そもそもカンストした刀剣が束になろうと簀巻きにされることすら無かったというのに、現状こうして毒を吐くだけに至るのは、それが今の限界であることに他ならない。
勿論今その拘束を解く訳にはいかない。解いた瞬間脱兎のごとく部屋から飛び出しことの原因を始末しようとするからだ。
故に見習いは四肢の使えぬ審神者の食事の手伝いをしようと、一人用小鍋にたっぷりと作った茶粥を茶碗に移し、木製の匙で掬いとり、口元へ運ぶ。
「……………一つ聞くが、燭台切光忠が作ったのか?」
「いいえ、僭越ながら私が作りました。燭台切光忠は他の刀剣と共に只今原因究明を進めています。………熱かったでしょうか?」
いや違う、そうじゃない。
審神者へ運ばれていた匙の茶粥を吐息で軽く冷まし、再度審神者へ差し出す見習い。この小娘の甲斐甲斐しさや健気な様子、素直さは審神者すら認める所だ。審神者としての基本的な業務の他に、研修内容にない鍛錬を付けても決して弱音を吐かずむしろ結果を出してきたこの見習いは気に入っている。
しかし研修内容や身体能力にばかり目が行って、人間としての自炊能力や家事が出来るかどうか、全く知らなかった。世話焼きの刀剣たちが滅多に出会えない子供を可愛がって(人外はどうにも子供に甘い)、家事をさせなかったという理由もある。
一見茶粥は普通だ。空腹もあってか美味そうにも見える。しかしこの本丸の食事は全て自分で作ってきた為に、他人の食事というのは例外的に作らせた燭台切光忠の物以外を知らない。自分の作る物が一番効率的だからという自負もあるが故に、見習いの家事能力への不信感が強かった。
仕方が無いと腹を括り、匙を含む。
「……毒など入っていないでしょう?」
「…ふん、もっと寄越せ」
「はい」
拍子抜けする程美味かった。抵抗なく喉へ滑り込み、じんわりと腹から温もる感覚は心地よい。
見習いは珍しく微笑みながら、茶碗どころか小鍋が空になるまで手を動かし続けた。普段から審神者と食事を共にしているが、ここまで勢いよくがっつくような旺盛さは非常に珍しいことだった。
「馳走になった」
「お粗末様でございます」
すっかり軽くなった小鍋や茶碗をまとめ、次に小さな紙袋に入れられていた錠剤を取り出す。丸っこい小さな薬丸だが、真珠めいた白い光沢のあるそれはあまり薬としての良い印象がない。これまで、一生世話にならないと高を括っていた為に見たことは無かったが、名称と薬効は知っていた。
“増霊薬”。造血薬とほぼ変わらない薬効で、要は血と霊力を置き換えただけである。審神者の病状も単なる貧血と似た体内霊力の低下で、それを無理に量産しようとした結果身体のバランスが崩れてしまった…というだけだ。増霊薬は霊力が結晶化した形でもあり、対象の器にもよるが、そこそこの量は補ってくれる代物だった。 ちなみにこの増霊薬の製造方法は普通に一般公開されており、何かもう血と同じ扱いなのか、献血と同じように大勢の審神者から霊力を専用の機器に溜めてもらうだけだ。詳しい原理は省くが、簡単に言えば意図的に超高純度にした霊力を結晶化させ、それを加工した物が増霊薬。ちなみに献血と違うのは、一応報酬としてそこそこ多くの資材を貰える点にある。無論この霊力譲渡はボランティアと若干の小遣いを兼ねているだけなので、一ヶ月に一度と連続して同じ量を取らないよう、しっかり管理されているが。
見習いのたおやかな掌に転がった、二つの増霊薬。簀巻きで両手の使えない審神者へ、これもやはり見習いが飲ませるのだろう。
「師匠…………口を開けて下さい」
「…………あ」
茶粥とは違い、本当に、これ以上ない程渋々といった風に口を開ける審神者。これまでなまじ飲み薬が必要となった病の経験など皆無であった為に、人生初となってしまった今回が審神者なりに割と不安なのである。
「先代の霊力は例えるなら…、冬の空だ。冷たく容赦のない、そのくせどこまでも広く何でも受け止めるような霊力だ。対して君は、夜…とでも言うのかな。とても美しく先代と同じく豊潤だけれど、同時に得体の知れない深さを感じるんだ」
「…ふーん」
「とはいえ基本的に霊力自体はどの人間も同じさ。ただ人間が区別されるのと同じように、そこに人格が加味されて判別しているに過ぎない」
「良く分からない例えね、それは」
「まぁね。でもその霊力を貰っている僕らは、やはり少なからず主と似通った部分はあるんだ。それは君が主になったとしても、恐らくは変わらない部分だろう」
「…それは、その身体を基礎構築している霊力が師匠のもので、あくまで私の霊力は食事的な意味合いってこと?」
「鍛刀、顕現させたのは先代だからね。勿論今の契約自体は歴とした儀式に則り完全に君へ譲渡され、文句無しに主となっている。でも、やはり性格自体はどうにもならないんだ」
「あー、そっか。私がしたのは陸奥と長曽根さんだけだしね」
「先代陸奥守くんは先代が連れて行ったけど…、まぁ彼なら現世にはよく馴染むだろうから心配はいらないか」
「私の陸奥と師匠の陸奥ってどうにも仲悪いんだよなぁ…」
「そこは彼ら同士の問題さ。何となく分からないでもないけどね」
先代審神者
改革の為に審神者から政府役人になったよ!だから見習いに本丸譲ったよ!刀剣には先代って呼ばれるよ!
この人のお陰でブラック本丸撲滅が進む進む
見習いを性的な意味で愛してると自覚したよ!
当代審神者
改革前政府役人がこの子に手を出したのが運の尽き。自爆して怒らせて食い散らかされたよ!※性的な意味で
父親兼師匠だった先代に食い散らかされたお陰で何か先代限定色狂いになってる
prev next
Back to main nobel