ここはそこで私がここに
さて、私がこの小さな名探偵が存在する世界で記憶、つまり前世について思い出した時からのことをお話ししましょう。
前世での私はかく言うオタクと言う存在で、もちろんコナンは大好きな作品であった。
お腐れも嗜んでいたし映画も原作も読んでいた私だったが、とくに綺麗な顔をしている訳でも、特別秀でた才など持ち合わせておらず、故に平和を望みこの世界の物語には干渉せずに生きていこうと誓ったのだ。
それに殺人事件も死体も見たくない関わりたくない、そんな勇気も度胸もないし何よりうっかりキャラに知識もちなんてバレたら怖い。まぁでも今の時間軸も分からないし、あわよくばタイミング良く遠目からキャラが見れたラッキーぐらいに思っておこう。そんなレベルであった。
実際、成人しても私がキャラに関わる事なんて無かったし見ることも無かった。強いて言えば家のテレビで工藤夫妻の活躍、怪盗キッド関連での報道・・・そして遊園地による爆破事件によるとある刑事の殉職、それらを画面越しに他人により知らされる事ぐらいだった。
そんな私に間違いなく人生で最も大事故である過ちが起きたのは・・・。
21歳にもなり、それなりに仕事場での存在が大きくなり、順調に事が進んでいたある日のことだった。
その日ボーナスが入った私は、たまには1人静かにオシャレなバーでお酒を飲みたいと懐に余裕がある時にしか足を運べないちょいとお高めな隠れ家的になバーへ歩を進めた。実家暮しの為家も、職場は女性主体の為に落ち着いた場所で飲むと言うのがあまり頻繁に出来る環境ではなかったのだ。
そのバーは私がまだ新卒の頃に偶然見つけたお店で、初老の優しそうな男性のマスターが1人で経営してるらしい。カクテルはほぼマスターのオリジナルによるもの、食事もお酒もこだわりたいからお客様は最低限、働きでは自分だけでいいとキッパリ言っていたのが印象的だった。
落ち着いた雰囲気のマスターとポツリポツリと、静かに流れるBGMの中談話するのがとても好きで、そこが行きつけになるのにはそう時間がかからなかった。
そしてその日、私は出会ってしまった。
きっと全てのタイミングが悪かった。今思えばそう思うしかなかったのだと思う。
その日飲んだ新作のカクテルが思った以上にアルコールの度数が高かったこと。
彼が、あの人もこの店に偶然来ていたこと。
とある刑事の殉職に、彼の精神が少なからず参っていたこと。
彼も大分アルコールにやられていたこと。
そして、偶然にも・・・私と彼の目が合ってしまったから。
抗わなければいけなかった、付いて行ってはいけなかった、彼の何かに縋るような目に、溺れてしまってはいけなかった・・・
大好きであったキャラクターからの甘い誘いを
その日アルコールで頭がやられていた私は逃げることが出来なかった。