確かにここに
ただ一人部屋の隅で蹲ることしか出来なかった、ゴミ箱に捨てられた隠れるように買ってきた妊娠検査薬は、まるでそらみろと言わんばかりにその結果を示している。
何かの間違いかと思った、間違えであればと、それでも杞憂であったと。なんだと笑えることが出来ればと。なんてだ?確かに記憶はあまりに曖昧だかしっかりと彼はスキンを装着していたはずだった?いや確かにスキンを付けていても避妊は100%じゃないとは聞いたことはある、それでも妊娠する確率なんてものはほとんど無いに等しいはずで、なんで??どうし、ピルまで飲んだのに、どうして???
何度たらればを、否定を繰り返しても、この事実は変わらない。
私のお腹には、胎内には赤ん坊がいる、恐らく、いや確実に降谷零の子供である。この世界に生まれてから、そういったことは大学生ぐらいの時に起きたそういう流れくらいでそれっきりはほんとにご無沙汰だったのだ。もう、どんなに可能性を潰しても、私に逃げ場なんか無かった。
思考が混ざりあってドロドロとした頭の中で私は、堕ろさなければ・・・そう思った。
この子が出来たのは間違い、私がやらかしてしまったから、馬鹿なことをしたから、運がわるかったから、この子は間違って出来てしまった。
この子はこの世界にいていい存在じゃない、いてはいけない・・・
降谷零の子供なんで・・・・
「こ、ども、降谷零の、安室、とおるの・・・こども」
確かに私は前世で降谷零が、安室透が大好きだった。
年の割に幼い顔立ちが、褐色の肌に色素の薄い髪の組み合わせがとても好みで、綺麗な青い瞳が好きで。強くて料理が好きで、それなのに赤井さんのこととなると熱くなってしまうような
テニスが強くて
仲間思いで
そんな、彼が、大好きだ・・・た
あぁ、だめだ、好きだ。
私はあの日の夜、その目で初めてみるあの綺麗で澄んだ瞳に、アルコールの熱で潤んだあの目に全てを奪われた。
私はどうしようなくその人を愛おしいと思ってしまったのだ、漫画じゃない、非現実じゃない、そこにいる人を、降谷零を、私は・・
そんな彼との、子供が・・・私の中で、生きて・・・?
生きて、いる?
おいおいおい、私は一体・・・なにを考えていた?
私のお腹に宿っているものはなんだ??ここにいる私は、この世界は・・・??
この世界は今現実だ、私はここで生きている、お腹には、私の中には一つの生命がいる。
瞬間今まで考えていた自分の思考に吐き気がした・・・!
私は、殺そうとした、命をまるでもののように、要らなくなった物のように、必要ないから、邪魔になるからという理由でいとも簡単に消そうとした・・・いや殺そうとしていた。
ここはもう私にとっての現実だ、漫画の世界じゃない、遊びじゃない、ここには、私のお腹には確かに
「ごめん、ごめんね・・・。要らなくなんてない、あなたが出来てしまった原因は私で、あなたはなにも悪くなんてない。貴方の存在は、間違いなんかじゃないのに。ごめんね、ごめんなさい・・・ごめんなさい!!」
決して消せない、やり直せない、それでも、やらなきゃいけない
「きっと、貴方には大変な思いをさせてしまう。父親の顔なんて見せてあげられないかもしれない。
それでも、私は貴方と生きてみたい。ごめんなさい、こんな私だけど、私…貴方のお母さんになりたい」
望んでいた平穏とは一瞬でかけ離れてしまったけど、きっともう私に彼と関われる機会なんてやって来ないだろう。
それでも、彼との間に出来た小さいけれど確かな繋がり。
あの人に似て綺麗で強くて聡明な子がうまれるかもしれない、私に似て平凡で特別じゃない子になるかもしれない。それでも、精一杯この子を愛そう。
単純だなと、前の世界で仲の良かった友人はおめでとうと笑ってくれるだろか?馬鹿だなって言って呆れるだろうか?それとも子供なんかと怒られるだろうか?
それでももう会えない友人はきっと私を応援してくれるに違いない、そう、きっと今世の私の両親のように。
オギャァ..オギャァ
「おめでとうございます、元気な男の子ですよ!!」
あぁ・・・
「よく頑張ったね二葉」
「あぁ、お疲れ様二葉。頑張ったな!」
彼によく似た、綺麗な瞳。
確かにここに在る、小さな命
「生まれてきてくれて、ありがとう…ありがとう、はじめ、これからよろしくね」
ぜろから生まれたいちのはなし