シュートシティの一番目立つビルに新しく貼られた広告を見て私は足を止めた。見惚れるほど美しい横顔だと思ったのはどうやら私だけではなかったようで、この寒さの中でミニスカートを履いた女の子達がスマホのカメラを向けていた。
隅の方に入った香水ブランドのロゴはそういうのに疎い私でも知っているような超有名ブランドだ。彼の人気を考えればオファーが来てもおかしくないなと思う反面、モヤっとした気持ちが過ぎる。
「……随分と遠い人になっちゃったなあ」
古い記憶の中に残る彼にはない大人びた表情に視線を逸らして、そのまま足早に歩き出す。過ぎ去った年月と離れてしまった距離を突きつけられたような気がして逃げ出してしまいたかった。
彼がジムチャレンジへと旅立っていってしまった日からもう十年も経った。無邪気な笑顔で私の手を引く彼なんてとっくの昔にいなくなってしまった。
だと言うのに相変わらず私は何度となく恋に落ちる。私の初恋で、永遠の想い人。
“オマエに相応しい男になって戻ってくる”
当時の彼は背が低くてひょろっとしていて、ともすれば女の子とも間違われるような容姿だった。同年代でも成長が早かった私と並んで歩いているとよく妹かと揶揄われたものだ。
でもその心根は昔も今も変わらない。彼らしく男気に溢れた台詞で私に未来を誓い、そのまま振り返らず歩き去っていく彼に心を奪われた。
幼い私は会えない日々を寂しく思う傍らで彼の言葉を思い出して頬を赤く染めた。まるで小説のようなロマンチックな恋、思春期の女の子を夢中にさせるには十分だった。それが呪いのように自身を縛るとも知らずに呑気なものだ。
ジムチャレンジを終えても彼は戻って来なかった。そのままナックルジムへ引き抜かれてジムリーダーになったからだ。手紙で連絡は取り合っていたのでお祝いをしたいと送ったが、返事はノーだった。チャンピオンに負けた自分ではまだ迎えにいけないと
何とも彼らしい返事に、私は募りに募った思いを込めてずっと待っていると返した。バカみたいに彼との約束を信じていた。一年経っても二年経っても、返信があまり返って来なくなっても信じていた。
努力家な彼のことだ。忙しくて手紙を見る時間も惜しんで頑張っていると都合の良い解釈をして、あまり手紙を出さなくなった。
気づけば私と彼の縁は切れてしまっていて、もう修復不可能になっていた。それでも諦め切れなくてジムの前で出待ちをしている彼のファン達に紛れてみたが、現実を思い知らされただけだ。
たくさんの女の子に囲まれる彼は背がぐんと伸びて体も大きくなり、私が夢見た運命の人そのものだった。声をかけてみようと思っていたのも忘れて背を向けて走る。道を行き交う人々から見られていると分かっていても涙が止められなくて顔をぐちゃぐちゃにしながらどうにか家までたどり着いた。
恨めしかった。私をこんなに好きにさせておいて忘れてしまうなんて酷い。そんな簡単に捨ててしまえる約束だったら、初めからしないでくれたらよかったのに。彼を恨めば恨むほどにまだ彼を好きな自分に気づかされて苦しかった。
嫌いになれれば、あるいはその場でなぜ返事をくれないんだと詰ってしまえれば楽になれたかもしれない。意気地無しの私はそのどちらも出来ないままに色褪せてはくれない思い出に縛られ続ける。
感情を吐き出すためにと綴った手紙はファンレターとして出すには未練がましくて引出しを圧迫するばかりだ。早く結婚でもして手の届かないところに行ってくれればいいのになあ。
私は希望の欠片も残さずに殺される日を待ち続けている。