「諦めねえの?」
私を心配そうに見つめるタレ目は真剣そのもので、投げやりに言ってる訳ではないとすぐに分かる。それでもあんまり良くないことを言っている自覚があるんだろう。口がへにゃへにゃと曲がって情けないことになっている。
気を使わせてしまっているという申し訳なさから私までへにゃへにゃが移ってしまいそうだ。まだ熱い湯気が上がっているマグカップを手に取ってさり気なく隠した。
「うーん、もう慣れっこだから一生このままなんじゃないかなあ」
「……オマエはそれで幸せなの?」
「ふふ、片想いもいいよ? 好きだなあって思うと周りまでキラキラして見えて毎日が明るくなるし」
そして現実に直面して最後はほろ苦い気持ちだけが残る。後半は口には出さずに心の内に留めた。別に嘘を言っている訳ではない。ただ選んで言わなかっただけだから。
キバナに心配されるのは、うんまあ良い気分だけど同時に惨めでもあるからなるべく避けたい。片想いの相手に片想いが叶わないことを慰められるなんてすごく滑稽だ。
「無理してない?」
「してないよ」
キバナは華やかな見た目とは反して性格は温厚そのもので面倒見がいい。本人は言われるのをすごく嫌がるけどなんかお母さんみたいだ。
手先の器用さを活かして料理が得意でお裾分けをくれるし、私が落ち込んでいると不思議なほどよく気づいてガス抜きに付き合ってくれる。
「今また母親みたいって思ったろ?」
少し考え事をしていただけだと言うのに幼馴染という長い付き合いの勘で私の考えが分かってしまうらしい。せっかくすべすべなお肌なのに眉間にシワが寄ってしまった。
「あんまり難しい顔してると子供から怖がられちゃうよ」
「それ禁句。というかオマエのせいなんですけど〜」
「ごめんごめん」
もはやお決まりとなった軽口を交わしてこの話題は終わりだ。せっかくキバナといるんだからもっと楽しい話がしたいなと話題を考えているとキバナの方が口を開くのが早かった。
「なあ、そいつってどんなやつ?」
キバナがそうやって私があまり話したがらないことに深入りしようとするのは珍しい。適当に誤魔化してしまおうかと思いかけて真剣な表情に言葉を飲み込んだ。
「……素敵な人だよ」
「他には?」
「背が高くて、かっこよくて、頼りがいがあって、仕事に対する姿勢が尊敬できて、自分に厳しいのに人には優しくて、笑った顔が可愛くて、皆からすごく好かれている、そんな人。笑っちゃうくらい高音の花でしょう?」
素直な思いを吐き出すと少しすっきりして気分が良かった。本人が知らないうちに告白のようなことを言ってしまう、なんかちょっとした悪戯のようだ。
キバナはそっかと言って黙り込む。急に惚気られても困る気持ちも分かるけど、話を振ってきたのはキバナだ。自業自得ってことでちょっとは我慢して欲しい。
「……なあ、それさ」
「ん?」
「オレさまでも良くない?」
たっぷり時間をかけた末のキバナの提案に私は笑いを堪えることができなかった。だって当の本人だというのに良いも悪いもないだろう。
キバナは冗談ではなく本気で言っていたようで私の大爆笑にへそを曲げてそっぽを向いた。
「オレさま、めちゃくちゃモテるのに。オマエのことなんてもう知らねえ」
「ごめんって。私もキバナは素敵な人だと思うよ」
「なら、いいじゃんか。オレさまもオマエもフリーだしさ」
キバナのその言葉が嬉しかった。たとえそこに恋愛感情が含まれていないにしても付き合ってみてもいいと思えるくらいには私を気に入ってくれているということに他ならないから。
こういうのを千載一遇のチャンスと言うんだろう。でもまあ、付き合ったりなんてしないけどね。
「分かってないなあ、キバナは」
そんな優しくて残酷なところも含めてやっぱり好きで諦められない。