諦めてくれ

「いい加減にしてもらえませんか。私は何度もお断りしたはずです」
 両手では足りないほどの回数の告白を断られているにも関わらず、目の前の男はまるで色良い返事をもらえたかのようにニコニコとしている。
 こちらは動揺が表に出ないよう努めて平坦な声音で話しているというのに、私とは正反対な彼の余裕が苛立ちを煽る。
 これでは振ったはずの私の方がダメージをうけているようではないか。唇を噛み締めてキッと睨みつける。
「オマエのこと好きなのはオレさまの自由だろ」
「……言い寄られるのが迷惑だと言っているんです」
「そうなの? 嬉しいのを必死で隠してるようにしか見えないけどなあ」
 的確に本心を言い当てられてしまい、心臓がドクリと大きな音を立てた。
 彼の言うとおり、私が彼の好意を嬉しく思っているのは事実だ。だって私は彼のファンで、彼のことを好きなのだから仕方がないじゃないか。誰だって手が届かない憧れの人から好きだと言われれば舞い上がりもする。
 それならその手を取ってハッピーエンドになれるだろうという話にもなるが、現実はそう上手くいかない。
 私がヒロインになれるような子じゃないのは私が一番理解している。今は確かに私を好きでいてくれてるかもしれないが、それも一時的なものだろう。安易に幸せを求めて壊れるのがこわい。
「自意識過剰なんじゃないですか? 誰も彼もがキバナさんのことを好きだと思わないでください」
 心にもない言葉を吐く度にこんなことを伝えたい訳ではないと胸が鈍く痛む。
 本当に私は弱い。だからこそちゃんと守らないと簡単に壊れてしまう。遊びだと割り切れないなら手を出すべきじゃない。
 しかしながら、キバナさんは深入りしないでくれと予防線を張る私にお構いなしに踏み込んでくる。
「手厳しいな。でも、そんなんじゃオレさまは騙されないぜ」
「違います!」
「ふーん、わざわざ有給取ってまでオレさまのインタビューが載ってる雑誌を買いに行ったのに?」
 私しか知るはずのないことを指摘され、驚きに目を見張る。しらばっくれるような余裕はなくて、動揺のままに聞き返すことしかできない。
「な、何でそれを」
「オレさまの情報力なめんなよ。ふふ、そんなにオレさまの秘密が知りたかったんだ? 可愛いなあ。恋人になってくれれば誰も知らないオレさまが全部オマエのものなのに」
「ファンだからって、好きになるわけじゃ……」
「そうやって屁理屈こねるのやめなよ」
 往生際悪く抵抗しようとする私を見て、彼はピシャリと言葉を遮った。心の奥底まで見通すような真剣な瞳に緊張から体が強ばる。
 彼は大人しくなった私の右手を取ると、まるでガラス細工を扱うかのように丁寧に持ち上げて自身の頬に触れさせた。
「はやく諦めてオレさまからドロドロに愛される覚悟決めてよ。大丈夫、二度と離れられないようにしてあげるからさ」
 そして、こぼれ落ちた涙と言葉はどうしようもなく私の本心だった。