「何、見てんの?」
つまらなさそうな声が降ってきたかと思えば、同時に背中へずっしりと重みがかかった。私の両肩から新しく生えてきた褐色の腕はびっくりするほど長い。
ちょっとした嫌味だなあって思いながら腕をサワサワとなでるとくすぐったそうな笑い声が漏れてくる。副業とはいえ、モデルをしているだけあってさすがの触り心地だ。
「もー、遊ばないで」
せっかく夢中になって感触を楽しんでいたのに、腕は引っ込んでいってしまった。少し残念に思っていると背中の重みが消えて、隣に移動したキバナくんは私の空いている左手を握った。
「人をダメにするソファ見てたの」
「ふーん、買うの?」
「欲しいけど場所取るなあって悩んでるとこ」
どこかの高級取りのジムリーダーさんとは違って、安月給の私のアパートは狭い。いやまあポケモンを育てている訳でもないし、私ひとりくらいなら十分な広さなんだけどね。
こうして恋人のキバナくんが泊まりに来るとちょっと狭いかなあと最近は思わないでもない。それに加えてソファなんて買ってしまえばさらに部屋が狭くなる訳で、お泊まりが厳しくなってしまうかもしれない。
「ソファ置いたらキバナくんが入らなくなっちゃうかも」
「オレさま、ベランダは寒くて凍えちゃう」
「可哀想だからホットココア差し入れあげるね」
「家にいれてくれないの? まったく酷い彼女だ」
キバナくんはそう言うとわざとらしくメソメソ鳴き真似をし始めた。前から気になってはいたのだけれど大事な彼氏様を泣かせる訳にはいかないので購入は見送りになりそうだ。
そう思って開いていたサイトを閉じると、キバナくんがソファよりも良いものがあると言い出した。
「えー、なになに?」
「聞いて驚け。今日オススメの商品は“オマエをダメにするキバナさま”だぜ」
これはまた大きく出たなあと思ってケラケラ笑いながら、キバナくんのアピールポイントを聞く。
「大きさは何と成人一人分! 縦が百九十五センチの、横は……だいたい四十五センチかな。オマエが飛びついてきてもしっかり受け止められるぜ」
「わあ、めちゃくちゃ大きい〜! でも、そんなにビッグサイズだとお高いんでしょう?」
お決まりのセリフで合いの手を入れてやると、キバナくんの青い瞳がキラキラ輝く。
「それが何と今なら“オマエからのちゅー半年分”で買えちゃいます」
「ふ、ふふっ……うーん、ちょっとお高いかなあ」
「この欲張りさんめ。なら、出血大サービスで“キバナさまのハグ”もつけちゃいます。これでどうだ?」
「あはは、買います買いますー!」
見事に私から購入宣言をもぎ取ったキバナくんがバッと抱きついてきて二人して床の上に転がった。
「クーリングオフは効かないからな」
「悪徳商法だ〜」
意味も分からずに適当な茶々を入れながら、とにかく何か面白くてキバナくんと二人笑い合う。
私をダメにするキバナくんって一体何なんだろう。キバナくんが好きすぎて何も出来なくなるんだろうか。それはそれで楽しみだなあ。
取り止めもないことを考えているとキバナくんがトントンと私の唇を突いて注意を促す。
「はやく代金払ってよ」
「もーせっかちだなあ」
文句を言いながらも私は記念すべきローン一回目の支払いをした。