雑居ビルが立ち並ぶ裏路地は古びた居酒屋が店を構えている。狭い店内には簡素な作りのテーブルとイスが所狭しと並べられていて、お世辞にも居心地が良いとは言えない。しかし私の安月給で満足するまで酒が飲みたいというとこういうところに来るしかなかった。今日も今日とて愛想笑いで上司の嫌味を乗り切り、こうして安酒を飲みながら日々の鬱憤を晴らしている訳だ。
毎日のように酒浸りで恥ずかしくないのかって? 放っておいてくれ。私は酒を飲むために働いているんだから好きにさせろ。今日は花の金曜日。明日の心配もいらないので次から次に注文しているとあっという間に酔ってしまった。
「あ〜! たまにはお高い酒とつまみで飲みたい〜!」
「んじゃあ、二軒目いく?」
酔っ払いの呻き声に反応したのは長身で見目の麗しい男である。紹介しよう、飲み友達のキバナさんだ。背が高いキバナ≠ネんてこの広いガラルでも一人しかいないだろう。しかしながら私は彼の職業を知らない。そういう設定になっているのだ。高給取りであろう彼が何故こんなボロっちい店で飲んでいるのかは知らないがなんか気づいたらいた。普通ならシャッター音や悲鳴が響き渡るところだが、この店にいるのは草臥れたサラリーマン達だ。ジムリーダーらしき人がいてもお近づきになるより酒を飲んでる方が大事なのである。
ひとりぼっちで飲む味気なさとキバナさんと関わる面倒くさを天秤にかけた結果、やっぱり面倒くさいなあと思ったのだがこの男ふと気づけば相席しているのだ。まるで黒光りする例のヤツのように毎度毎度どこかからわいてくるしぶとさに負けてこうして飲み友達となってしまった。
「……そんな所スクープされたらアナタのファンに袋叩きにされるんだけど?」
「ははっ」
笑い事ではない。こっちからすれば死活問題だ。ケラケラ笑うキバナさんをじっとり睨む。顔面偏差値の高さを抜けばキバナさんはその辺を歩いているお兄さんとあんまり変わらなかった。一杯目は必ず生ビールを頼むし、それを勢いよくあおってから出す声は草臥れたサラリーマンと同じだ。意外にも親しみやすい人なのだ。まあ、そうでなければ飲み友達になんてならなかったが
「冗談は置いといて。美味しいごちそうと酒がしこたま飲める方法知ってるぜ」
「え!? 本当? 朝まで飲んだくれられる?」
「ああ、朝日が登るまで飲んでも構わねえぜ」
半ば食い気味にキバナに詰め寄ると、本当に酒好きだなあと苦笑された。だって、仕方ないじゃないか。これと言って特筆できる趣味もないから、酒を飲むくらいしか娯楽がないのだ。早く早くと急かすとキバナさんはパーカーのポケットから取り出した物をテーブルの上に置いた。
「オレさまと盃交わしてくれれば、好きなだけ飲ませてやるぜ♡」
「…………はあ、酔いが冷めたし帰ろ」
こんないかにもな色男と付き合いたいと思うほど私は夢見がちな女ではないのだ。酒の席とはいえ面白くなさすぎる冗談に腰をあげると、慌てたキバナさんに腕を掴まれた。まだ何かと胡乱げに視線をやったが、その口から出てきた酒の名前に私はニッコリ笑ってテーブルの上の鍵を取った。
「まずはお試しコースってことでよろしく!」
この後、お試しコースが本当にお試しだけで終わったのかという質問については黙秘権を行使する。