新妻ルックのキバナくん

 カーテンを勢い良く開ける音と共に薄暗い部屋へ晴天の日光が差し込んだ。休日はいくら寝ても寝たりない私は布団を頭まで被ろうとしたが、あえなく横から取り上げられてしまう。
「パンケーキ焼けてるから早く起きなよ、寝坊助さん」
 寝起きでシバシバする視界の中にすっかり朝の身支度を整えた同居人が映り込んだ。寝汚い私と違って、キバナくんはすこぶる健康的な生活を送っている。
 もう何時間も前にベッドから出て朝のルーティンをこなし、朝食の用意をしてくれたのだろう。開けたままの寝室のドアから食欲をくすぐる甘い匂いが流れ込んでいる。
「クロテッドクリームは?」
「もちろん用意してるって。ついでにパンケーキは三段だ」
「キバナくん、天才じゃん。好き」
 我が家のスーパーダーリンを褒め称える言葉を二、三投げかけるとキバナくんはヌメラにそっくりな顔でニコニコ笑って自分の頬を差し出した。
 ご褒美ちょうだいのサインに答えて、私はチュッと軽く唇を触れさせる。私のキスなんかそんな大したものでもないのに、キバナくんははしゃいだ声を上げて私にギュッと抱きついてそのままベッドから起こした。
 もうイチャイチャラブラブするような付き合いの長さではないのだけれどキバナくんはずっと変わらない。そんなところが可愛くって私まで頬がゆるゆるに下がって甘えた声を出してしまうから私達は倦怠期知らずである。
 ようやく頭が動き始めてモリモリ食べるぞと立ち上がったところで私はあることに気づいた。
 キバナくんは部屋着のTシャツの上からエプロンをつけている。それはいつも通りなのだが、そのエプロンの下から伸びる足は褐色の肌だ。
「……何してんの?」
  思わずエプロンの裾をめくり上げた私に呆れた声が上から降ってくる。ちなみにその下は普通にショートパンツだった。ちょっと残念。
「いやあ、新妻ルックだなあって思って」
 いかにも履いてないように見えるというのは男のロマンってやつなんだと思う。私は女だけれど何となくその気持ちが分かってしまった。
「オヤジ臭くない?」
「だって可愛いキバナくん相手だもん。仕方ないじゃん」
 何が仕方がないのか私にもよく分からないが、おおよそのことはキバナくんだからという言い訳で乗り切れる。キバナくんが文句を言ってくる前に、お腹が空いたねと話題を逸らした。
 しかしながら、キバナくんはそれが不服なようで珍しく口をへの字に曲げてジトリと見つめてくる。
「納得がいかない」
「えー? もう、さっきのは私が悪かったってごめん」
「そっちじゃない」
 エプロンをまくられたことに腹を立てているのかと思い謝ったが、それは検討違いだったらしくピシャリと跳ね除けられた。そして、そのままズズズと詰め寄ってくると私を壁際に追い込んだ。
 四捨五入して身長二メートルは伊達じゃない。かなりの威圧感に逃げようと身じろぎするが、壁に腕をつかれて退路を塞がれた。腰を折って身を屈めたキバナくんの顔が近づいてくる。こんな時なのにとても顔が良いと見惚れる私にキバナくんは真剣な表情で言った。
「オレさまはオマエの旦那さんになりたいんだけど?」
 なんか心臓にギュンと来た。見事にドッカンドッカンと大砲を撃ち込まれて陥落してしまい、ズルズルと床に座り込む。イケメンの壁ドンって怖い。
 返事を急かしてくるキバナくんに、あと十年待って死んじゃうと言うとさらに床ドンの追い討ちをかけてきた。私は即死だった。
 ちなみにリビングでお留守番していたパンケーキはすっかり冷めてしまったので、キバナくんがアイスサンドにしてくれた。美味しかった。