終わりにしよう

「終わりにしよう」
疲れの滲む表情でダンデくんは声を絞り出すように言った。ここ最近は会うどころかロクに連絡さえ取り合えない状況だった。私とダンデくんは同居しているから、お互いの生存確認は出来ていたが何せ時間が全く噛み合わない。寝る時間を惜しんで働くダンデくんを支えたいと思う私の希望から家事の類は全て私の仕事だ。まあほぼ家政婦と変わらないと言ってもおかしくないくらいには酷かった。
ダンデくんは自らを別れを切り出したのに処刑台の罪人のように身を縮こまらせている。そんな姿が何だかおかしくてとても悲しむ気にはなれなかった。
「ダンデくんは私のこと嫌いになった? 」
静かな問いかけにはっとしたようにダンデくんは顔を上げた。そして言葉に迷ったのか口を開きかけては閉じて何も答えない。それが何よりの答えだった。
「私はダンデくんが好きなんだけどなあ」
ダメ押しのようにそう呟けば、人間からメッソンへと早変わりしたダンデくんに抱きつかれる。震える肩を労るようにポンポンと叩くと腕の力が強くなりぎゅうぎゅうと締めあげられる。
「あーこらこら、ダンデくんは馬鹿力なんだから加減して?」
返事はなかったけれどちゃんと緩んだので良い子と囁いて髪の毛を梳いてやる。これは相当ストレスを溜め込んでいたな?全くこうと決めたら全速力で走っていってしまって休むことさえ忘れてしまうんだから困った人だ。まあそういうところも好きなんだけど
「キミが、かわいそうだといわれたんだ」
「うん」
突然始まったダンデくんの話に静かに耳を傾けて相槌を打つ。ぽつりぽつりと語られるのは私がダンデくんに愛想を尽かすという変な妄想だ。普段なら相手にもしなかったであろうダンデくんも日々のストレスやら私への罪悪感やらで変な方向へと走っていってしまったのだ。言った相手の目的はおそらく私と別れさせて後釜に入ることだったんだろうけど、そういう部分は丸っきり忘れられてしまっているから哀れなものだ。
「私はかわいそうじゃないよ。私がダンデくんに構うのは私の意思だし嫌ならしない。好きでしてるの」
「本当か?」
「信じられないの?」
少し赤くなった目と近距離で見つめ合うと、ダンデくんは迷うように瞳を揺らした。信じてはいるけれど不安と言ったところだろう。普段は自信ありげなくせに彼は意外と変なところで臆病なのだ。
「………オレはキミに何も返せてない」
「そんなことないよ」
私が欲しいものはロマンチックなデートだとか、高価な装飾品ではない。まずその大前提が間違っている。無欲に見えてこれでも私は欲張りなタチなのだ。そんなものでは満足出来ない。私が求めるのはもっともっと得がたくて価値のあるものだ。
「だってダンデくんを見てたらわかるんだもん。どれくらい愛されてるかって」
私の言葉にダンデくんはまた瞳を潤ませて、ズルいと一言呟いた。まだまだ機嫌が直るには時間がかかりそうだった。でも、べそべそと泣くダンデくんをなぐさめるのは私の特権だと思うとそんなに悪い気もしない。そういうところはズルいと思うからお互い様なのだ。