友達以上恋人未満

夢現と微睡みながら聞こえてくる会話にゆっくりと目を覚ますと隣で寝ていた人の姿はすでになかった。時計の針が差す時間はまだ早く、ベッドの中で他愛のない話を語り合っていてもいい時間だ。全く薄情にも程がある。
重たい身体を起こしてその辺に落ちていた服を着ようかと悩んでやめた。横暴な誰かさんのせいで無惨な姿になっていたからだ。諦めてシーツに包まり、裸足でとてとてと話し声が聞こえる方へ近づく。そっと聞き耳を立てると、どうやら相手は女性でポケモンに詳しい人物のようだ。自他共に認めるポケモン馬鹿な彼の話にもついていけているらしい。私の勝手な思い込みかもしれないが、電話口で話す声は楽しそうに感じてしまう。それが妙にイラッとした。
だって、女性の家で他のひとに電話をかけるだなんて失礼でしょう?
これは断じて嫉妬ではない。彼が非常識なだけだから。そう言い訳をして彼の座るソファの後ろ側へそっと回り込む。気配を感じて私の方へ視線を向けてくるが、スルーした。長い長い紫色の髪を手ですく。私が寝ている間にシャワーを浴びてきたのだろう。いつも使っているシャンプーの香りがする。何度か遊ぶようにサラサラと指の間を通していると電話が終わったのか彼がこちらを向いた。視線が合ってイタズラ好きな幼子を見るようにふっと口元が緩む。伸びてきた腕が首に回り、そのまま傾けられる。
しかし、唇が重なる前に阻むものがあった。私の手だ。
予想外のことに彼は目をまん丸にする。こんな流されるようなキスを易々と受け入れるのは癪だから彼の唇を手で塞いだのだ。
「今は気分じゃないの」
そう言ってにらみつけると手のひらにぐっと唇を押しつけられてリップ音がする。こういう余裕に満ちたところがムカつくのだ。仕方なく手を退けると、目的を阻まれたくせにまるで勝者のようにゆったりと微笑んだ。
「嫉妬か?」
「思い上がらないで」
私と彼は別に恋人ってわけじゃない。だったらセフレかって言うとそれはそれで爛れた関係のようになってしまうのが嫌だけれど。明確にお付き合いしましょうとは宣言はしてないが、他に関係を持っているわけでもないので友達以上恋人未満ってやつだ。
「電話中にキミがじゃれてくるからてっきり寂しがっているのかと思ってしまった」
「あら、そう?明日はデートしようと誘ってきたくせに、相手をベッドに置き去りにする不調法者を見に来たの」
そう言って咎めると素直に謝ってきた。そしてデートが中止になったとも。電話をしている時点で察してはいたが、気分がいいものではない。
「夜はできる限り早めに帰ってくる。待っていてくれ」
「玄関が開かないかもしれないわ」
「その時はキミの気が済むまで許しを乞うことにするぜ」
これまた気障ったらしくそんなセリフを吐くと私が躱す間もなく唇を奪った。眉間にシワを寄せる私を見てぽんぽんと頭をなでると、名残惜しむこともなく行ってしまった。
全くこれだからデリカシーがないんだ。
深くため息をついて、おもむろに着信履歴から友人の名前を引っ張り出してかける。こんな気持ちで家に居れるわけがない。今日は友人宅でお泊まり飲み会だ。電気のついていない部屋の前で困り果てればいいんだ。