執着心

特別な理由は何もない。ただダンデは彼女を自分のものにしたいと思った。それには幼馴染というポジションは大変便利で、幼いダンデは彼女の手を引いて両親に向かって宣言した。
『大きくなったらオレたち結婚するんだぜ!』
大人たちは子どもの可愛いお遊びだとニコニコ笑っていたがダンデは本気だった。彼女が頬を赤く染めてもじもじしているところからも容易に達成しうると考えられた。
それからダンデは彼女の手を離さず連れ回した。ジムチャレンジも彼女に半ば無理やりポケモンを持たせて連れていったし、就職だってダンデが手配した。彼女はいつも静かに黙ってついてきた。時折ダンデを見て嬉しそうに顔を綻ばせるので彼女も不本意ではないのだろう。むしろダンデの傍にいることを望んでいるようにも見えた。全てが上手くいっているはずだったんだ。

珍しく遅い時間に家を訪ねてきた彼女は足元が覚束ないほど酒に酔っていた。自分がいないところでこんなに飲むなんて危ないじゃないかとその無防備な姿に苛立ちを覚える。
しかし今叱ってもさして記憶には残らないだろう。おとなしく介抱することにしてダンデは彼女を部屋に上げた。遅いから泊まって行った方がいいと声をかけるが夢うつつなのか返事はない。ため息をついて彼女の履いているパンプスを脱がせる。そのまま抱きかかえて寝室に連れていこうとしたところでようやく彼女が言葉を発した。
「………ダンデくんって恋人いるの?」
「いないぜ」
ダンデは彼女と結婚するつもりだったが、そういえばまだこの関係性を恋人と呼んだことはなかった。別に法的拘束力のないものに興味はなかった。しかし彼女が望むならそういう風に呼んでも良かった。
「なら、ならね、お願いがあるの」
必死で訴えかけてくる彼女に何でも聞くと言って安心させるように手を握った。それを見て彼女は瞳を潤ませる。何をそんなに悲しむ必要があるんだと不思議に思う。ダンデは彼女のためなら何でも叶えてやるというのに。彼女はダンデの思いとは裏腹に苦しそうに言葉を絞り出した。
「都合のいい女でいいから抱いて」
ダンデは彼女の言ったことが信じられなかった。都合のいい女?冗談じゃない。彼女以上に大事に思っている女などいない。ダンデは彼女を自分のものにしなければ気が済まないというのに、彼女は一時の相手でいいと言えてしまうくらい軽い気持ちなのか。行き場を失った彼女への思いがグラグラと煮えたぎる。
どうしてやろうか?健気にダンデに縋ってみせる彼女を見ながら凶悪な衝動が抑えきれない。このまま彼女の誤解を解くのは癪だ。せめてダンデと同じくらいの執着心、いやそれ以上の感情を抱いてもらわなければならない。どうしてもダンデじゃないとダメなのだと彼女の口から言わせたい。
「いいぜ!オレもちょうど相手が欲しいと思っていたんだ」
せいぜい彼女が思う通りの【ダンデ】を演じてやろうじゃないか。諦めるなんて選択肢がなくなるくらいオレを刻み込んでやる。