牡丹

「花が欲しいのか?」
たまたま通りかかった花屋にこの辺では珍しい花が並んでいた。思わず歩く速度を緩めて見ていると、隣にいた彼に気づかれた。少し気になったのは事実だが、花を送ってほしいだなんて愛嬌のある女でもない。すぐ首を横に振って返す。しかし彼はそんな私に苦笑して腕を引っ張った。
「そんなつれないことを言うなよ。ほら、好きな花を贈るから」
半ば強制的に店に入らされるとすぐに店員が寄ってきて用件を聞いてくる。彼が好き勝手に話し始めてしまうので、もはや買わないという選択肢はない。人好きするような笑顔で話すくせに人の意見を聞かず強引なのだから困ったものだ。店員に案内されてあれこれ花を物色する彼は物珍しそうにながめている。時折お眼鏡にあったのか手を伸ばす花は白や淡い色の小さく控えめなものばかりだ。私の雰囲気に合わせて選んでいるのかと思うと嬉しさもあるが、お目当ての花とは随分と差がある。
まあそんなものだろうなあ。私はそんな華やかな性格でもなく、目立った容姿でもないし。もう選んでもらった方がいいかな。そんな気持ちでフラフラと店内を見回しているとふいに彼が振り向いた。
「キミはどの花がいい?」
今まで人を放っていたのにちゃんと最初の宣言通り私が見ていた花を贈ってくれる気があったようだ。しかしいきなり聞かれても困る。ちょうどいい花の名前も思いつかず諦めて素直に白状した。
「牡丹………」
似合わないのは承知の上でこんなねだるような真似をすることは恥ずかしくて、声が尻すぼみになっていく。彼は私の様子を気にした風もなく珍しい花だなと言いながらすぐに花束にするように手配した。
店を出た私の腕の中にはお祝い事でもないのにとても立派な花が居座っていて、周りの注目を大いに集めた。何か適当に誤魔化しておけば良かったなあ。複雑な気分になりながら彼とふたり並んで歩く。
花と私。ダンデくんと私。示し合わせたような分不相応さだ。何だか滑稽に見えて笑ってしまいそう。
「ねえ、ダンデくん」
「ん?」
「お花ありがとうね」
手元の花束から赤色の牡丹を一本抜いて彼の髪に差す。綺麗な顔立ちをしているから花もよく映える。
「ふふ、やっぱりよく似合う」
「キミな、男のオレが花を飾っても大して意味がないだろう」
そうは言ったものの、優しい彼は自身の花をそのままに新しい花を引き抜くと私の髪にも差した。
「似合わないでしょ?」
「そうか?オレは好きだぜ」
本心から言っているのかはわからなかったが、惚れた弱みというものでニコニコする彼には勝てなかった。話題を逸らすようにおそろいねと言って手を繋いだ。
こうして私が彼の隣に居られるのは奇跡に近い。淡い淡いひとときの夢みたいなものだ。いつかは現実に戻る日がやってきて、彼に相応しい女性が私に取って代わる覚悟はとうにできていた。
随分と諦めが早いって?ひとには自分の身の丈にあった幸せがあるもの。私は涙に明け暮れる日々は御免よ。だからその時が来たらちゃんと笑顔で見送るわ。
でもそうだなあ、もし何かひとつやり返すとしたら花束を贈ってやろう。私が流した涙の分のちょっとしたうらみと、良い夢を見れてありがとうという感謝の気持ちと、こうあれたら良かったという思いを牡丹にのせてね。