信仰

 世界はいつも灰色だった。他人から見た私の評価は、悪い子じゃないけれど何か足りない。具体的に何が足りないのか聞いたことはないが大体の予想はつく。きっと根性とか熱意とかそんな感じのものだ。不真面目ではないけれどやる気があるのかと言えばそうでもない。つまり至極どうでもいい人間。私自身も特に何かに執着することもなかった。あの時までは、
 私が初めて見た色は太陽の色だ。ユラユラと燃え盛る炎を瞳に宿した彼は、重そうなマントをはためかせてフィールドに立っていた。テレビの小さな画面越しにそれをながめていた私はすぐに彼に興味を持った。何故、彼にだけ色がつくのか。理由を知りたくて追いかけているうちに、彼のファンとなりやがて部下となった。
 ついぞ理由を知ることは出来なかったが、彼の周りは様々な色に溢れていた。私はますます彼に夢中になっていく。気づけば彼はチャンピオンの座を降り、バトルタワーのオーナーとなっていた。そして私は長年、彼を見続けてきた経験を生かしてタワーのスタッフとして日々チャレンジャーとバトルをしている。彼と直接、言葉を交わす機会も増え上司と部下として上手くやっていたはずだった。
「キミが好きだ。オレと付き合ってくれないか?」
 だから彼の唐突な告白は私にとっても想定外の事態だ。何と返していいのか分からず無音の時間が流れる。私は確かに彼のファンではあるが、自分に近しい者として見たことはまるでなかったのだ。
「困らせてしまったな。キミに好かれていると思っていたのはオレの勘違いだったようだ」
 おそらく私が了承の意を返すと疑っていなかった彼は曖昧に微笑む。それもそうだ。私は彼に対する好意を隠すことなんてしていなかった。
「……私は、ダンデさんが好きです」
 それは本心だ。彼のおかげで私は人並みに感情を持った人間として生きていける。彼とずっと一緒にいれたら、きっと刺激的で楽しい生活を遅れるだろう。でも、鏡の中に写る私はどうしようもなく無味乾燥な人間でしかなくて。彼の周りにいるようなキラキラと輝きを放つ人達とは違うのだ。
「でもカミサマに恋することは出来ないんです。ごめんなさい」
 私の言葉に彼は弱ったなと頭をかいた。きっとこうやって告白を断られる機会なんてなかったんだろうなあと思う。申し訳ないことをしてしまった。気まずくなってきて視線を逸らす。
「オレもひとりの人間だ。理不尽な怒りや我儘だって抱くこともある」
「はい」
 何も彼に理想を押し付けたい訳ではない。私は素直に頷いた。彼は少しほっとしたような表情をして私の手を取る。体温の高い彼からじんわりと熱が移ってくる。
「オレはどうやらキミを逃がしたくないらしい」
 近距離から真っ直ぐに見つめられ私も困ってしまう。信仰は恋になりうるのだろうか。