「トリックオアトリート!」
とても元気の良い声で私の家を訪ねてきたのは可愛いオバケの格好をした男の子ではなく、厳つい魔王の角を生やした成人済み男性だった。
時刻はすでに二十三時を回っていて仕事で仮装をしたまま来たのだとすぐに分かった。
着替えてからくればいいのにと思いながらもポケットの中を探ると小さなアメがひとつ出てくる。やると分かっていたらもっとマシなものを用意していたが、今日のところはこれで満足してもらうしかないだろう。
赤黒く塗られた爪の手にアメを握らせて、おかえりなさいと迎え入れる。
「……キミ、お菓子なんて持っていたのか」
「うん。何か先輩がハロウィンだからってくれてね」
いつもは変なお菓子ばっかり渡されて困るけど今日ばかりは助かったよと笑いかけるが、私とは反対にダンデくんの眉間にはシワがよっていき難しい表情になる。
「イヤだぜ!」
「えぇ?」
突き出された手の中には先ほど私があげたアメが入っていて、まさかのお菓子受け取り拒否である。とんでもなくわがままなゴーストもいたものだ。
私がジトリと見つめるとダンデくんはうっとかあっとか言いながらごにょごにょ言い訳をし始める。
「だって、キミにイタズラをしたかったんだ。受け取ったら出来なくなってしまう」
うーん、つまり整理するとダンデくんは私がお菓子を持ってないところを狙って訪れて確実にイタズラしてやるぞと意気込んで来た訳だ。いつまで経っても悪ガキ……、いや少年心を忘れない人だ。
すっかり肩を落としてしまったダンデくんにちょっとだけ可哀想だなあと言う気持ちがわいてきて、返却されたアメを受け取った。
「ほら、返されちゃったからお菓子無いよ? イタズラしなくていいの?」
「い、いいのか! これを着てくれ!」
現金にもすぐさま元気を取り戻したダンデくんは手に持っていた紙袋を私に見せた。中に入っているのは白と黒の布地だ。
それを引っ張り出して広げてみると黒いワンピースに白いフリルの付いたエプロンの服だった。完全にメイドさんの格好である。あとものすごく丈が短い。お辞儀をすれば確実にぱんつが見えてしまう。
これがどういう意図で作られたものかは邪推しなくても少し恥ずかしそうなダンデくんを見ていればすぐに分かった。駄々をこねた末のこれかと思わずスンとしてしまう。
私の内心を理解したのだろう。ダンデくんは何も言わなくても頭を下げて頼むと言った。魔王様の格好をしているのに何とも情けない姿である。
「はぁ…………着るだけだからね」
許しを得たダンデくんは逆転勝利のガッツポーズを決めた。今まで性癖なんて聞いたことないけれど、意外とそういうのが好きなのだろうか。
あんまりの喜びように譲歩してあげた私としては少々面白くない。やり返す意図を込めて脱衣場の戸を閉める前に釘をさしておく。
「お触りは禁止だからね」
間もなく聞こえてきた悲鳴に私は鼻歌を歌いながら着替えた。
その後メイドにかしずいてご機嫌を取ろうとする魔王様がいたとか、いなかったとか。