「ん、あれ? 何でダンデくんがいるの?」
仕事が繁盛期に入り、平日は連日残業の嵐。寝て起きて出勤して残業してコンビニでビール買って飲んで寝てを繰り返すばかりで、まともな生活が遅れているとはとてもじゃないが言いづらい。
もはや残業マシーンと化した私に他人を気遣う余裕なんか皆無ですっかり連絡を放置してしまっていたのだが、金晩だとはしゃいで飲んで帰ってきてみれば何と彼氏様がいらっしゃるではないか。
「おかえり。飲んできたのか?」
「う、うん」
ダンデくんは私が雑貨屋で見つけて勢いで買ってきたリザードンのエプロンを身につけている。これは聞かなくてもわかる。残業疲れの私のために夕飯を作って待っていてくれたのだ。
冷や汗をダラダラと流しながらダンデくんとの会話を必死で思い出す。何か私は忘れていたのだろうか?
こんなにも優しい彼氏を放ったらかして飲んだくれていたなんて間違いなく有罪だ。これは怒られる。というか私ならめっちゃ怒る。
私がぐるぐると悩んでいるとダンデくんはキッチンから冷たい水を持ってきてくれた。
「少し飲んだ方がいい」
「……ありがとう」
すっかりしょぼくれた様子の私にダンデくんは何事か察したのだろう。笑いながら何の約束もしていないぞと言った。
「そうなの……?」
「ああ。キミがいっぱいいっぱいなのは顔を合わせなくても分かっていたからな。寝顔くらいは見れるかと思って黙って来たんだ」
余計に気を遣わせてしまったというダンデくんに胸がじんわり温かくなる。
連絡ひとつも返さないズボラな恋人のためにこんなに尽くしてくれて、しかもそれを無碍にされても優しくしてくれるとは人が良すぎないか。
「うちの彼氏が大聖母様だ……これ夢かな……」
「ふふ、キミは面白いな。夢じゃないぜ。ほらおいで」
両腕を広げて招き入れてくれるダンデくんに私は躊躇うことなく抱きついた。
しっかりと鍛え上げられた胸筋に鼻先を埋めると、うちに置いてあるボディソープの香りがする。抱きつきごたえのある体躯と少し高めの体温は幻ではなく現実のものだ。
「本物のダンデくんのマシュマロ雄っぱいだぁ」
「マシュマロ? ただの筋肉の塊だろう」
遠慮なくぐりぐりと顔を押し付ける私に苦笑しながらもダンデくんはしたいようにさせてくれる。
「もー、ダンデくんは価値がわかってないんだから!」
「しかし……キミの方が柔らかいと思うぜ」
「この柔らかいけど弾力がある感じがいいの!」
ダンデくんは私の熱弁にそんなに良いものかと不思議そうにしている。そこで私の悪戯心がむくむくと湧いてきた。
私は常日頃からこの立派な雄っぱいを心ゆくまで楽しみたいと思っていたが、そういう雰囲気になると必ずダンデくんに流されてしまっていた。昼間の姿からは想像もできないような色っぽい姿に私ごときが太刀打ちできるはずもない。
チラリと様子を伺うとダンデくんは何だと首を傾げる。
今なら彼女のワガママを聞いてくれる優しいダンデくんのままだ。酒に酔って怖いもの知らずな私がチャンスだと囁きかける。
「ダンデくん、雄っぱい見せてよ」
「は……?」
「ねえちょっとくらいならいいでしょ? 前からじっくり見たいなあって思ってたの」
唐突にセクハラ発言をし始めた私にダンデくんは困惑しているようで長い睫毛が忙しなく瞬く。
「キミ、それは……」
「ダンデくんも私のおっぱい好きじゃん。あーあ、私もダンデくんの見たいのにずるいなあ」
「……いや、それはその」
自身がおっぱい好きである自覚があるのかタジタジし始めたダンデくんに私はニンマリと笑った。これはもう一押しすればいける。
肩口に頬を押し付けて耳元で甘えた声を出す。
「ちょっとだけでいいからさ。ほら、Tシャツめくってみて?」
「キミ、悪ふざけがすぎるぜ!」
珍しく照れているのかダンデくんの耳たぶが少し赤くなる。やってやったという思いが私の背中を後押しして、ますます調子に乗ってしまう。
ダンデくんの背中に腕を回してエプロンの結び目を軽く引っ張った。何の防御力もないそれはスルスルと解けて落ちてしまう。すると大したことはしていないはずなのに、大袈裟に反応したダンデくんが抗議の声をあげる。
「酔っ払い過ぎだ! ほら今日はもう寝るんだ!」
「えー、久しぶりに会えたのにつれないこと言わないでよ。ダンデくんとイチャイチャしたかったのに」
「キミはオレを弄って遊びたいだけだろう!?」
なかなかガードが固く怒り始めてしまったダンデくんはやはり一筋縄ではいかないようだ。
仕方がない。これは最終手段を使うしかないだろう。私は一度、顔を伏せてから瞳を少し潤ませて上目遣いで見上げた。
「どうしてもダメ? ダンデくんの雄っぱいみたら私めちゃくちゃ元気になれるのに……」
「うっ、卑怯だぜ! オレがキミの泣き顔に弱いのを知りながら!」
「ね、今日だけだからお願い」
ダンデくんはしばらく抗うように唸っていたが、やがて観念したようで今日だけだぞと言っておとなしくリビングへ移動してくれた。
私はというと念願が叶ってすっかり舞い上がってしまい、お酒の力もプラスしてエプロンを外すダンデくんを大喜びで囃し立てた。
「おーっぱい! おーっぱい!」
「キミ……後で覚えていろよ」
ダンデくんは恨めしそうな目で私を見つめながらエプロンを丁寧に畳んでテーブルに置くとTシャツの裾に手をかけた。私は生唾を飲みながらその様をじっと見守る。
さすがにこれだけ見られていると恥ずかしさがあるのかそろそろと持ち上げられて、焦らすように美しく割れた腹筋が露わになっていく。
「ダンデくんって本当に綺麗な筋肉の付き方してるよね」
「そうか? 火傷の跡とか結構ボロボロだと思うが」
「それがいいんじゃん。ダンデくんが努力してきた証みたいでかっこいいよ……あとエッチで興奮する」
付け加えた一言に服を持ち上げていたダンデくんの手がピタリと止まる。
「……良いことを言ったのに全部、台無しだぜ」
「褒めたのに〜」
普段言われ慣れていないせいか、もはや耳どころか顔から首まで赤くしているダンデくんはとても可愛くって何だか来るものがある。
スイッチが入る時のダンデくんもこんな感じの気分なのかなあと思いながらダンデくんに手が止まっていると指摘する。
「分かってる…………ほら、これでいいか?」
窮屈なTシャツから解放されたダンデくんの雄っぱいはとても立派なものだ。カップ数に換算したらおおっと歓声が上がるくらいのものだろう。
私は吸い寄せられるように手を伸ばした。指先が触れると冷たかったのかダンデくんの肩がビクリと揺れて、何だかそんなところにまで変な劣情を抱いてしまって私はガッツリと雄っぱいを掴む。
「やっぱり柔らかくて気持ちいいよ」
そのまま無心で雄っぱいの感触を楽しんでいるとダンデくんは無言で顔を背けた。
ダンデくんがするみたいに褒めているのにまるで無視だ。うんうん恥ずかしいよね。だからいっつもやめてって言ってるのに絶対やめてくれないんだから。
たまには恥ずかしい思いをしてくれたらいいんだと加虐的な気分になりながら思う存分に弄ぶ。
「やっぱり鍛えてると乳首が下向きなんだね」
「……」
「わあ、ダンデくんって陥没乳首だったんだあ」
「……」
「陥没乳首ってすごく感じやすいって聞くけど本当かな。感じるようになったら触り合いっこできるね」
辛抱強く耐えていたダンデくんだが、さすがに乳首開発されるのは嫌だったのかキッと睨みつけてきた。とはいっても羞恥の色も濃いのでそこまでの迫力ではないけれど
「良い加減にしてくれ!」
「別に陥没してても恥ずかしがらなくていいんだよ?」
「そういう話をしてるんじゃない!」
プンスコしているダンデくんにハイハイと返事をしつつも手は雄っぱいから離さない。というより一回揉んでしまえばすっかり癖になってしまってやめられない。
あまり露骨になり過ぎないように時折乳首まわりに指を掠めさせると雄っぱいがピクピク動いて可愛い。もっと思い切ってグリグリ触ったらどんな反応をするだろう?
理性はすっかり飛んでいってしまって欲望のままに慎ましやかなそこに手をかけた。
「陥没乳首を卒業できるようにいっぱい触ってあげるね♡」
そう言いながらニヤニヤと笑って膝の上に乗り上がった。しかしお楽しみタイムだと内心で舌舐めずりしていたのがバレたのか不機嫌そうな低い声が降ってくる。
「……そこまで言うなら教えてもらおうか」
「へっ?」
すぐさま大きな手に腰を掴まれたかと思うと乱雑にソファに転がされ、起き上がる間もなく上からダンデくんが覆いかぶさってくる。
口元はちゃんとつり上がってはいるが、もちろん目は笑っていない。本能的な恐怖を誤魔化そうとヘラヘラと笑ってみるがダンデくんの反応は冷ややかだ。
「キミの考えはよく分かった」
「え、えっと、ダンデさん?」
「確かにオレは陥没乳首だ。それは事実だ」
「ひっ、ご、ごめんなさい」
慌てて謝りの言葉を口にするがもう遅すぎた。そんなことでダンデくんの怒りが解けるはずもなく、両腕をまとめて掴みあげられて頭の上に固定される。さながらまな板の上の魚のようだ。
「お手本にキミの優秀な乳首とやらを見せてもらおうか?」
私の情けない悲鳴はダンデくんにかじりつかれて消えていった。
その後、ダンデくんはしっかりと二倍返し……いや三倍返し、おまけで四倍返し、もう一声の五倍返しだとネチネチ責め立ててきた。私が悪いというのと、逃げようにも逃げられないというので朝までフルコースで付き合わされることになった。
そして変に煽り立ててしまったおかげで翌朝にはどこがとは言わないが、すっかり腫れ上がってしまった。仕方なしに絆創膏で保護したところ、さらに大変な事態に陥ったとかいう話は黒歴史なので忘れてしまった。