EXカラーのキバナくん

 うちのファッションモンスターくんは帰宅するなりバタバタと慌ただしく自室へと駆けていった。その手には見慣れぬ紙袋が握られていたように見える。
 これまでの行動パターンから推測すると中身は衣服、それもキバナくんのお気に入りに違いない。早く着てみたくていてもたってもいられなかったんだろう。
 と考えていたところで、バタンと常のキバナくんには珍しい大きな物音を立てて出てきた。じゃじゃーんという声に私はキバナくんを見て、固まる。
「えっ…………新種のキバナくん?」
 トレンドマークであるダボついたパーカーとヘアバンドはそのままに、しかしカラーリングが全く異なっていた。
 いつもの目にうるさいオレンジはなりを潜め、視界を埋めつくすのは圧倒的白さだ。
 パチパチと目を瞬かせる私にキバナくんはゆるゆると目を細める。
「イベント用の新コスチュームなの。似合うだろ?」
「……なんか見慣れない」
「ふふ、そうかもな。オレさまも色違いなんて初めて着るもん」
 キバナくんが愛用しているパーカーは先代のナックルジムリーダーから送られたものだ。なかなか身長が伸びず、チャレンジャーから侮られると悩んでいたキバナくんのためを思ってダボついたシルエットになっている。
 その後はすくすくと成長し股下ローズタワーだなんて言われるくらいだけれど、すっかり板についたパーカーを脱ぐことはなかった。
「これさ、コラボカラーなのよ。何のポケモンか分かる?」
 悪戯っぽく笑うキバナくんは大層ご機嫌だ。私はわざとらしく、うーんと唸りながら観察する。
 キバナくんに白色のポケモンといえば、きっとジュラルドンだ。けれど相棒のカラーをまとってニコニコ微笑む姿はまるで――
「……マホイップちゃん?」
 成人済みの大男にこんなことを言うのは気が引けるのだけれど、白くてゆるふわ系な雰囲気は完璧にそうとしか思えない。
 さすがに機嫌を損ねたかなあと恐る恐る見上げると形い唇はへの字に曲がってしまっていた。
「フェアリーじゃなくてドラゴンだってぇ」
 慌ててごめんと謝るが、すっかり拗ねてしまったようでそっぽを向いたままぶすくれている。
「ちゃんとジュラルドンくんに見えるよ……!」
「へえへえ、どうせいつもみたいに可愛い可愛い言うんでしょ」
「ごめんって〜!」
 むしろそういうところが可愛いと思っているのだが、素直に言ってしまえば火に油を注ぐことになる。私は賢明に口をつぐんだ。
 根気強く謝り続けていると、ようやくキバナくんも許してくれる気になったようでチラチラと私の様子を伺ってくる。
「本当に悪いと思ってる?」
「思ってる!!」
「じゃあ、オレさまのことちゃんと捕まえて?」
 長い両腕を広げて招き入れるように差し出してコテンと首を傾ける。やっぱり可愛らしいポケモンにしか見えない。
「うーん、キバナくん強そうだから私じゃ捕まえらんないかも」
「元からオマエにメロメロだから大丈夫!」
「こだわり強そうだし、オシャボじゃなかったら跳ね除けられそう」
「オレさま、めちゃくちゃチョロいからね? 普通のモンスターボールに入るくらいチョロチョロだからね?」
 あれこれと捕まえない理由を並べ立てると焦ったキバナくんが言い募ってくる。捕まえやすいのはいいことだけれど、そんなに安い男なのかと思うと不安でもある。
 もはや何の話をしていたのか訳が分からなくなったところで、唸りながら悩んでいると野生のキバナくんが突進してきた。長身を窮屈そうにかがめて腰の当たりにギュウギュウと抱きついてくる。
「私の方が捕まえられちゃったじゃん」
「これはスキンシップだからいいの」
 すっかり甘えたモードに入ってしまったようでグリグリと額をお腹に擦り付けられる。
 やっぱりキバナくんは可愛い。そう思いながら、この可愛い子をゲットするために囁いた。
「ウチの子になる?」
 元気の良い返事が上がって、私は6Vの貴重な個体を友情ゲットした。