平日の夜、仕事の疲れからダラダラとテレビを見ながら無為に時間を消費している時にその電話はかかってきた。
鳴り響いた着信音に相手も確認せずに出たが、はたして相手は私が思いを寄せる人物だった。思わぬラッキーに頬が緩むのを感じながら挨拶がてら軽い世間話を交わす。それが済むと彼はあのさと言って話を切り出してきた。
『来週の土曜日にデートしない?』
この男は唐突になんてことを言い出すんだ。
対策不足の私はもろに急所に食らってしまい、たっぷり三秒ほど押し黙る。
デートなんて意味深な言葉を使ってはいるが彼はきっと何も考えてないに違いない。女友達同士でデートしようとか言うのと同じノリだ。深く考える方がバカを見る。
「デートなら行かないかな」
『うわ、冷たいな。ただのキャンプだよ、キャンプ』
ほら、見ろ。やっぱりただのジョークだった。
これが電話で良かったと心の底から思う。面と向かって話していたら、酷く動揺しているのが丸分かりだっただろう。
「それなら行こうかな。ここの所行けてなかったし」
『待って、オレさまとのデートよりキャンプの方がいいってすごく不服なんですけど?』
電話越しでも分かる拗ねた様子に不服なのはこっちの方だと思う。もしも本気でどちらか選べるんだとしたら私は迷わない。
こんなことをあちこちで言っていればトラブルの元になるが、そこは要領のいい彼のことだ。人を選んでやっているんだろう。あまり信用されるのも考えものだ。
『キバナ様と一日デート券なんて超プレミアものだぜ』
「No.1ジムリーダー様だもんね」
『……ジムリーダーがホストに聞こえるのはオレさまの空耳?』
実際に何年か前のチャリティイベントで彼との対戦券がオークションにかけられたのだが、ものすごい競争率だった。その中の半分以上は対戦をデートと勘違いしているような連中だったので、デート券がかけられた暁には血で血を洗う戦いを見ることになるだろう。
「キバナさまの同伴は高くつきそうだしなあ」
『だから同伴じゃなくてデートだってぇ』
「で、おいくらなの?」
『うーん……オレさまの指名料に初回割引きをかけて、いつもありがとうサービス分を引いて、キャンプの割増料金を足したら、リザードン級のカレー一食分かな』
「それってほぼキャンプの割増料金だけじゃないの?」
『ふふ、期待してるよ』
楽しそうな笑い声を漏らす彼はすっかり私が来るものだと思っているようだ。私は彼に聞こえないようにそっと息を吐く。
「何も予定が入らなかったら、でいいなら行く」
『そう言いつつ、オレさまのために予定空けてくれるもんな』
自意識過剰とも取れるセリフにすぐさま反論しようとしたが、言っていることは大体合っているのでやめた。代わりに今度は電話越しでも分かるように大きなため息をつく。
『ごめんごめん。オマエが優しいからつい調子に乗っちゃって……いつも感謝してんのよ。じゃあ、また』
優しい声音でつげられて私が言葉に詰まっている間にマイペースな彼は電話を切ってしまった。まるで彼の代名詞である砂嵐が通り過ぎるようだった。
スマホをテーブルの上へと放り出して、ベッドの上へと倒れ込む。
「あ〜、ホントにずるい」
恋ってやつは厄介なもので何気ない言葉にドキドキしたりシュンとしたりしてしまう。私の心は完全に彼の手のひらの上だ。
でも、それがもどかしいと思っても離れたいとはならないのだから私は随分と恋する乙女らしい。