カーテンを開けると、晴天の力強い朝日が室内へと差し込んだ。私がいなくなった隙にベッドを大の字で占領していた暴君はたちまち呻き声を上げて日陰の方へゴロンと寝返りをうつ。
その様子を微笑ましく見ながら私はベッドの端に腰掛けてダンデくんの肩を揺する。
「ダンデくん、時間だから起きて」
優しいお願いにダンデくんはむずがるように首を振って逃げようとする。常の彼には見られない子供っぽい仕草に母性本能がくすぐられる。
できる事ならこのまま二度寝させてあげたいところだが、それでは遅刻してダンデくんが困ってしまう。心を鬼にして揺さぶり続けるとようやく覚醒し始めたようで、紫色の長い睫毛が震えてその下の瞳が顔を出す。
「おはよう」
私の挨拶はたぶんダンデくんには聞こえていない。だって、朝の挨拶の返事にしては随分な対応が返ってきたのだから。
「あ゛?」
低く掠れた声は不機嫌さが滲み出ていて本能的な恐れに身体が小さく震えた。しかし不思議な色っぽさを含んでいて不快感はない。半眼の鋭い目は彼が元から持つカリスマ性が宿っているのか、逃げたいよりも屈服したいという感情を掻き立てられた。清々しい朝には不釣り合い後ろ暗い思いに胸の奥が鈍く疼く。
今、彼の上にのしかかったらもっと機嫌を損ねるだろうか。心地の良い眠りを邪魔した不届き者にどんな罰を与えるのだろう。あるいは、私の瞳の奥に潜んだ欲に気付いて浅ましい奴だと笑うのかもしれない。
考えるだけで期待に胸が熱くなる。当初の目的も忘れて熱い息を漏らした。
「ダンデくん……」
どうしてもちゃんと起こさないといけないのだろうか。元はと言えば、彼の寝起きが悪いのが元凶だ。このまま私が流されてしまったとして、一回で起きれない彼にも非がないとは言い切れない。
甘い誘惑にくらりと理性が揺らいで言い訳ばかりが頭に浮かぶ。彼はまだ覚醒しきってはいないようで、私の行動を不信がる様子はなくただ不機嫌なだけだ。
ベッドの上に乗り上がるとギシリとスプリングが鳴る。悪い事をしているという背徳感は興奮を煽るスパイスにしかならなかった。
状況を飲み込めない彼を上から覗き込みそのまま―――
「ばきゅあ」
鳴き声とともに寝室のドアがガタガタと揺れた。私は驚いてダンデくんの上から飛び退く。
きっといつまで経っても起きてこない私達を心配して見に来てくれたのだ。彼は主人と違って早起きだから。
危ない。彼がいなければダンデくんを無断欠勤にさせてしまうところだった。
すっかり頭が覚めた私はダンデくんの傍による。この後に及んでもまだスヤスヤと寝息を立てているのだから呑気なものだ。
私はダンデくんの両頬を摘み、勢いよく引っ張った。
「その、すまない」
ようやく目を覚ましたダンデくんを風呂場に放り込み十数分後、シャワーを浴びてスッキリしたダンデくんが出てきた。しょんぼりと肩を落として謝る姿は先ほどまでの面影はまるでない。
「ふふ、怒ってないから早く席について。ご飯食べよ」
「む……」
お咎めなしは納得がいかないとばかりにダンデくんは唸って頬を膨らませた。大事なのは迷惑をかけられた私の気持ちじゃないかなと思うが、ナチュラルボーンの王様は何でも自分の尺度で計りたがる。
仕方ないなあとため息をついて歩み寄りほんのり赤みが残る頬に触れる。
「さっき思いっきり引っ張ったからもう気は済んだよ」
それが罰代わりだと言うとダンデくんは渋々ながらも納得してくれたようでダイニングテーブルへ向かった。
全く手のかかる人だ。そこも可愛くて好きなのだけれど
「なあキミ、やっぱり朝は自力で……」
「起きれないでしょ」
「…………」
往生際の悪いことを言うダンデくんに間髪入れずに突っ込むとぐうの音も出ない彼はピタリと口を閉じた。自身の不甲斐なさが気にかかるのか眉間にシワが寄っていくのを見ながら私は微笑んだ。
「それに私、ダンデくんを起こすの好きだし」
いつも紳士的なダンデくんがあんな姿を見せてくれるチャンスをみすみす逃すわけにはいかない。ちょっとした日常の楽しみなのだ。
上機嫌で私も席につくとダンデくんは何故か頬を赤くしていた。
「キミ、その顔はちょっと……えっちすぎるぜ」
「ええ?」
えっちなのは寝起きのダンデくんの方だと思ったが、私は賢明に口を噤んだ。朝の出来事を知ったらますます起こされるのを嫌がるに違いないから。
「気のせいだよ」
あの色っぽいダンデくんは私だけの秘密だ。