「キミってチョロいよな。知らない人に騙されて付いて行きやしないかと心配になるくらいだぜ」
そう宣ったのは今しがた私から巻き上げたプリンを悠々と召し上がっている暴君である。
常々思うが何でプリンって三個入りなんだろう。二人で食べたら最後の一個が争いの火種になることは目に見えているじゃない。悲しみしか生まないから、四個入りにすべきだと私は断固として主張したい。
「ダンデくん……? もしかしなくてもさっきのは、」
「ああ、わざとなんだぜ」
当たり前だろうと言わんばかりの堂々とした物言いに私は悔しさで床を叩く。
うん、知ってた。知ってたよ。ダンデくんの拗ね顔に私がタイプ一致急所だと分かっていてやっているのは
おかげでジャンケンにすらならずに私はダンデくんにラスイチのプリンを献上したのだ。これじゃあチョロいと言われても仕方がないのかもしれないが、少しだけ抗議させてほしい。
だってさ、あのおヒゲの生えた頬をまん丸に膨らませて悲しそうに眉を下げられてみてよ。いつも可愛いのに、さらき可愛くなってどうするの。可愛さの暴力じゃん。
私のラスイチのプリン防衛率は見事にゼロだ。百戦錬磨のチャンピオン、ダンデに毎度毎度奪い去られてしまう。
このナチュラルボーン王様め、可愛い彼女に譲ってあげようという気持ちはないのかとも思うが、ラスイチのプリンを強奪した時にフフンと鼻で笑うダンデくんもあざと可愛いので私が負けるのは宿命なのかもしれない。
「ううっ、私だってたまにはプリン二個食べたいのに……」
「いつも譲ってくれてサンキューだぜ」
ニコッと笑ってウインクを投げてくるダンデくんに私は屈しな、…………いこともない。良いように丸め込まれているように感じるのはきっと気のせいではないだろう。
「ダンデくんって、あんまりお兄ちゃんっぽくないよね」
大人気なくプリンの恨みを込めて八つ当たり気味に呟くと、ダンデくんは驚いたように目をまん丸にした。
だって、普通は弟妹がいれば普通は譲り癖がついたりするものじゃない。
「そうか、そうだな。うん、実を言うとオレは二個食べたいと思うほどプリン好きじゃないんだ」
「えっ、なら頂戴よ!」
「だが、キミからもらった二個目のプリンは特別美味しい気がするんだ」
「それってただの意地悪じゃない……?」
「ははっ悪いな」
笑い事ではないと思う。食べ物の恨みは恐いんだぞ。
ダンデくんがまさか人の欲しがる物を奪って喜ぶような性格だとは思わなかった。大分、趣味が悪いけどイメージ的にどうなんだろう。
ジトリと見つめるとおおよその意図は悟ったのだろう。ダンデくんは肩を竦めて見せた。
「最初はちょっとした喧嘩をしてみたかったんだ」
「喧嘩? 何でそんなことを」
「ホップとは歳が離れすぎて兄弟喧嘩になんてならないし、反抗期はローズさんに諭されて不発に終わった。キバナとは育成論やら戦略で言い合いにもなるが、ヒートアップしすぎて“ちょっとした”の域を超えてしまう」
「つまりは、私とプリンの取り合いがしてみたかったと?」
「そういうことになるな」
なんてことだ。私はダンデくんが本気で二個目のプリンが欲しいと思いこみ、知らず知らずのうちにダンデくんの願いを潰してしまっていたのだ。全ては私がダンデくんの可愛い顔に弱いが故に
「あ、えっと……今からでも取り合いする?」
「もう食べちゃったぜ」
「デスヨネ」
私はダメなやつだと頭を抱えているとダンデくんがそう落ち込むなと慰めてくれる。優しい。いや、プリンはくれないから優しくないけれど
「いいんだ。ただ少しくだらないワガママを言ってみたかっただけなんだ」
「本当に?」
「ああ、オレが可愛くてプリンを譲ったもののやっぱり自分も食べたくて恨めしそうな顔をしているキミが好きだぜ」
「それは言わなくていいの!」
ダンデくんの背中をポコポコ叩くとしんみりした雰囲気はすっかり霧散した。
甘えたいならそうと言ってくれれば良かったのにと思うが、彼からすればそんなつもりはなかったんだろう。全く難儀な人だ。広くて大きな背中にたっぷり愛情を込めて声をかける。
「ワガママくらい何時でも聞いてあげるからね」
「……いいのか?」
まるで小さな子供のような自信なさげな問いかけに私は胸をたたいて応える。
「もちろん! なんてったってラスイチのプリンを譲れる心の広さだからね!」
それはニャースの額より小さいのではないかという声は聞こえない振りをした。